ウリ坊(完全版)
役場にて(恵)
飄と役場で鉢合わせした。彼は照れくさそうに目線を逸らす。
「珍しいですね。こんな所で会うなんて」
私たちは、受付の前のソファに腰掛けた。
「今日は特殊動物税の申告に来たんです」
「特殊動物って、もしかしてウリ坊のこと?」
「はい。これは自慢ですが、ウリ坊は三軒ある裏ペットショップのうち、
うちでしか扱って無いんです。その代わり、うちには無いペットもいますが。
なので申告が必要なんです」
「それで税金かかるの? 神さまもがめついなぁ」
「私もそう思います。あと、この間はありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる。飄は不思議そうに
「はい?」
「河原で、私たちを庇ってくれたでしょう?」
ああ、あれは、と
「当然のことをしたまでだよ」
「当然というほど親しくない気がするんですが……」
「きついなぁ」
「?」
彼を傷つけたようだったので(でも、何で?)私は和やかに見えるようにと
口角を上げる。そうすれば、あのへにゃんとした笑顔を返してくれるかと
思ったのだが、失敗した。何故か真顔で見つめ返してきたのだ。
私は目をそらした。
だから感情なんて嫌いなのだ。付き合いも嫌いなのだ。誰も数式の
ようには行動してくれない。だからこっちまでおかしくなってしまう。
平静ではいられなくなる。
彼は立ち上がり自分の書類を見る。
「とりあえず、申告済ませてこよっか」
「そうですね」
言葉には続きがあった。
「終わったら、どっか行かないかい? たまにはふたりでさ」
作ったつもりはないのに、口元がほころぶ。鏡を見なくても分かる。
私は、笑っているのだ。
「……ありがとう」
多分。……私は、嬉しい。