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てっしゅう
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「哀の川」 第二十八話

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純一はずっと環のことを考えていた。あの日自分が勇気を出して家に帰っていれば、先生は妊娠もしなかったし、あの事故があっても怪我だけで終わっていたはずだ・・・そう何度も繰り返し気持ちが悲しくなっていた。やがて新幹線は新大阪に着き、純一は降りて東海道線に乗り換え、三宮へ向かった。淀川を渡ってから景色は都会に変わっていた。電車の中で話されている言葉も普段耳にしない関西言葉であった。父と杏子のふるさとに自分がやってきた。

新しい場所で新しい暮らしを始めることが環への悲しみを癒してくれるだろうか・・・学園生活が楽しいものになればすべての悲しみは消えてゆくのだろうか・・・そんな思いに駆られた。遠くで自分を呼ぶ声がする。祖父と祖母の声だ。
「純一!こっちだよ、元気にしてたか?ずいぶん大きくなったなあ・・・見違えるぞ、なあ母さん」
「そうね、立派ね・・・麻子さんにそっくりになってきたみたい・・・さあ、車に乗って、家に帰って寛いでよ。まだ建てたばかりだから気に入ってくれると思うけど」
「お世話になります。関西は初めてなのでいろいろと聞きたい事がたくさんあります。教えてくださいね」
「ああ、学校が始まるまでにいろいろと出かけようじゃないか。母さんも楽しみにしていたから。遠慮はいらんよ、君の家だと思えばいいから」
「ありがとうございます。震災の後はもうあまり残っていないんですね・・・酷かったでしょうから、まだまだ回復が終わっていない感じなんですか?」
「そうだよ、ここら辺は商業地だから真っ先に回復したけど、住宅地なんかはまだまだだよ。我々は恵まれていたと思うね。今からだよ本当の回復は・・・」

祖父の家は三宮市内にあった。住宅地に真新しい家は建っていた。思い切って洋風にした家は地震に強いと建築会社のお墨付きだと話してくれた。二度と起こってはいけないけど、震災に備えることだけは誰よりも敏感になっている住民たちでもあった。