彼と彼女の連作
眼鏡の彼女
ごめんなさい。
最後に、言葉だけのそれを口にした瞬間に、大声で笑いたい衝動に駆られた。
先生が僕を嫌ってるなんてことは知ってる、その理由も。
たいてい彼らは、のんびりしてちゃいけないって僕らを急かすことしかしない。
人それぞれにペースがあるなんて、曖昧なことをいったくせに。
はっきりわかれば、やりやすいのに。
だから今日も僕は境界線を探すんだ。逃げ道を見つけるために。
「貴方の言う境界線ってどこにあるの?」
そんな自信ありげに笑うから知ってるんでしょう?
クラスでも変わり者と有名な彼女は、わずかに斜めにずれた眼鏡を直しながら二人きりの教室で僕に問いかけた。
僕はとっさに答えて逃げ道を探す。
怯えたように背中を向けて、黒板の白いチョークを手に窓の外の青空に向かって線を引いた。
引けない、空には何も映らない。
―――――沈黙
笑ったはずの顔はゆがんでいて、チョークは折ってしまたらしい、手が白く染まる。
何かが自分の口から、驚くほどなめらかに滑り落ちて大きく息を吸い込んだ。
彼女はそれが当然だとでも言うように、静かに僕の腕の中にいた。
告白みたいだ。なんて情けない告白だろう。
足も声もがくがくと震えている。
先ほどよりも多くの言葉が口から滑り落ちた。
どこか軽くなったことを安堵するのと同時に、彼女の沈黙に恐怖した。
知らないうちに泣いていた。
彼女の手が優しく、そっと後ろに回る。
涙が止まったら、好きだ。と本当に告白しようと思った。