彼と彼女の連作
境界線を探す彼
音と言葉の境目はどこにあるんだろう。
海と陸の揺らがない境目ってあるんだろうか?
彼はいつも、自分の中に境界線を探している。
先生は彼が嫌いだ。
彼はいつも笑って理屈ばかりこねていて、ごめんなさいを言わない。
彼があまりに屁理屈をいうものだから、ふと聞いてみたくなった。
ずれたメガネを直すと、あのほほ笑みがいつもよりきれいにみえる。
「僕の言う境界はどこにあるのかって?簡単だよ」
そう言って、彼は黒板から白いチョークを手にとり、窓の外の大空にまっすぐな線を引いて見せた。
いつものように、その顔には笑みが浮かんでいるだろう。
その背中を見つめて、私は何も言わなかった。
「嘘だよ。」
笑っていたはずの顔はゆがんでいて、長かったチョークはその手の中で折られていた。
彼はゆっくり私を抱きしめて、ひとつ大きく息を吸い込んだ。
怖い、怖くてたまらない。
境界が見えない。
僕は知らないうちに、大人と子供の境界を飛び越える。
広い世界から、狭い処へと押し込められる。
いつまで、僕はいつまで、許される世界にいることができるのだろうか。
彼のほうが背が高い。
そのせいで包み込むように抱かれている私は、今度も何も言わなかった。
小さな子にするように背中に手を回す。
肩が濡れる感触に、好きだなぁ。と思った。