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仮想現実

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その夜、私は事務所に残り得意先への資料を作成していた。
新しいデータを作る前のチェックで以前のデータのウィンドウを開いた時である。
擦りガラスの窓一面が鮮明な光に照らされた。

夕暮れから降り出した雨。
この時間になって雨足はさらに強まり、雷が発生し始めた。

何度目かの稲妻の閃光と雷鳴がほぼ同時に私の感覚に届いた時だ。
私は、暗闇に陥った。そう、停電した。
雷鳴のせいか、ディスプレイの画像の消失音は聞こえなかったが、本体からモータの回転する音が残っていた。
だが、停電は十数秒で事務所の照明がついた。
パソコンを立ち上げなおす。
「ん!?」
デスクトップに見慣れないアイコンが入り込んでいる。
私は新種のウイルスかと警戒した。
だが、そのような情報やチェックには引っかからない。
思い切ってアイコンをクリック。
「アニメーション?」
画像処理をしたような実体に近いヒトが現われた。
「こんにちは」
「こんにちは」と挨拶を返した自分が滑稽だと思った。
画像のヒトも笑った。私は、小首を傾げ、見返した。
幼く若くはないし、私と同世代よりは年下に見えるその女のヒトは微笑んだまま言った。
「そこへ行ってもいい?」
「え?!」
「出てもいい?貴方の傍に……」
そんなことなどあるわけがないと私は軽く答えてしまった。
「いいよ。愉しみだ。早くおいで」
画像が消えて、ちょうど特殊撮影が行われるブルースクリーンような壁紙が残っていた。
「あれ?」
私が、ディスプレイに顔を近づけたとき、私の肩に触れる温もり。
私は、怖さなどを感じるより先に振り返った。
「あ……」
画像が実像になって私を見ているではないか。
「ど、どこから?」何という稚拙な問いを投げかけているんだ。
彼女は、片手の拳を鼻先に当て、笑いながらディスプレイを指差す。
「ずっと見ていたの、貴方の事」
「ずっと?ずっとっていつから……」
「貴方が、ここで仕事を始めた頃から。だから初めましてから、もう十数年になるかな」
「何言ってるんだ?………」
冗談にも程がある。と思いつつも誰かが忍び込み、私の後ろに近づくなんて気付かないはずがない。
何故なら私の席は、事務所の一番奥、二面を壁にしている部屋の角に当たる場所だ。
「お仕事してください」
私は、近くの椅子を引いてくると彼女に勧めた。
「ありがとう」
彼女は、椅子に腰掛けた。シートが彼女に合ったぐらい沈んだ。
(幽霊の類ではなさそうか)
作品名:仮想現実 作家名:甜茶