青春の断片
青春の断片
小説を書いてみると、
三十年前の記憶が鮮やかに
蘇るから不思議です。
好きだったひとと出会った場所、
初デートのときはどんな天気だったか、
暑かったか、寒かったか。
風が吹いていたか。
その程度のことは誰でも
記憶があるでしょう。
そのときを小説として書くと、
三十年間も、殆ど思い出さなかったことが
まざまざと見えてくる。
彼女の着ていた服の色。
電車の中で必死で彼女の席を確保して、
その傍に立って見下ろす彼女の髪の感じとか、
車窓を流れて行く線路際の花だとか。
話したこと、聞いたことの断片。
そうです。
もう一度青春が蘇るのです。
ときめくのです。
そして、涙も。
了