だまし絵の回廊の旅
2:オウム
回廊にいられたのは一瞬だけ。
羽がまるで絨毯のように床いっぱいに散っていて、少し歩きにくい。
「君はまだそんなモノを被っていたのかい!」
元ピエロの案内人はあきれて叫んだ。
オウムの顔した誰かが、こっちを見ていた。
「別に良いじゃないか。それにとっても素敵だろう。僕はいつか本物のオウムになって見せるよ。ソンナモノヲカブッテイタノカイ!」
「まぁ、すごいわ」
歌姫はあまりのそっくりさにお驚きの声を上げた。
「光栄です、レディ」
きっちりとしていて美しい礼。
「紳士なのね」
「おい、姫さまをたぶらかすな。少しの間だまってろよ、それともカエルに言いつけようか?」
「わかったって」
咳払いをひとつ。
「姫さま、こちらの羽だらけの広間にはオウムが住んでおります」
「こちらの方ね」
小さな手を振った、オウムも振り返す。
「彼はエコーの呪いに掛かっていて、三度に一度、言葉を声色までそっくりに真似します」
「その通り。声色マデソックリニ」
ピエロはお辞儀した。
パチパチと拍手しながら、彼女は少し残念そうな顔をした。
「これでお終いなのね。呪いに掛かるまでのお話も聞いてみたかったわ」
「それは申しわけないね。おいピエロ、レディは物語が好きなのかい?オ終イナノネ。先に言ってくれれば、少しは用意したのに」
「それは僕も知らなかったよ。あと僕はもうピエロじゃないんだけどね」
オウムは聞いていなかった。
羽を盛大に飛び散らせながら、床で何かを探している。
歌姫が小さなくしゃみをした。
見つけたものは、ウサギの耳のついたカチューシャに、ウサギの丸い尻尾が縫い付けられた鞄だった。
「ピエロジャナインダケドネ。なんだって?」
「別に知らなくてもいいことさ。で、それは何かな」
「何かな、レディ、君ならわかるだろう?」
くしゃみの合間に声が聞こえた。
「引き裂かれた、クシュン…ウ、ウサギかし、らクシュン」
「正解だよ、ウサギカシ、ラ。大事なとこは其処じゃないんだがね」
「クシュ、クシュン。じゃ、どこなの・・・クシュン!」
「大丈夫ですか姫様」
「ピエロへの餞別ってところさ。誰からだったけな?クシュン!」
「君からじゃないのかい?まぁ、いいや、貰えるものは貰っておくよ」
案内人が手を出すと、オウムは首をかしげた。
「なぜだい?」
「ピエロって言ったら、僕のことだろう」
「でもやめたんだろ?」
「違うよ、休業中さ。それにピエロがいないんなら、誰にあげたっていいだろう」
ポンッ、と手を打った。
「誰ニアゲタッテイイダロウ。そうだな!では帽子をなくした君にプレゼントだ」
「どうも」
鞄を肩にかけ、カチューシャを頭につける。ウサギの耳が跳ねるように揺れた。
「クシュン、クシュン、クシュン、クシュン!!」
「おやおや、クシュン!!レディに風邪をひかせてしまったかな?此処は少し埃っぽいからね」
「これはいけない。それじゃ、僕たちはお暇するよ。姫様、参りましょうか」
「クシュン、クシュン」
手を振るオウムに振り返し、二人は急いで駆け出した。
絵は地面に転がされていて、暗い穴に落ちるように二人はそこから消え去った。