未来からの来訪者
まあ、これ以上ここで言い合っても仕方がない。僕の部屋には取られるものは何もないわけだし、一晩くらいならいいだろう。それに、一人で晩酌するよりも、美女が注いでくれるお酒が飲めるとなると、少しは楽しく飲めるかもしれない。
僕はわざとらしく大きなため息をつくと、「仕方がない、上がれよ」と、短く言って部屋に入った。
「そういえば、まだ名前も聞いてなかったな」
「なか……じゃなくて。えっと、小森さくらです」
小森さんか。そういえば、最近アルバイトで店に入ってきた子も小森って言ったっけ。そういえば、さくらはその子に似ているかもしれない。
「小森さんか。ご飯は食べたの?」
「いえ、まだ」
「じゃあ、ついでだ。少し待っててくれ。なんか適当に……」
「すみません」
僕は台所に立つと、冷蔵庫を開けた。昨日買っておいた野菜がある。それに豚肉もあったし、買い置きのビーフンの面がある。そうだ、これでビーフンを作ろう。手軽でしかも野菜もしっかりとれるし、お腹もふくれる。
材料を切って、炒めて……程なくして、焼きビーフンが出来上がった。昨日作っていたバンバンジーと一緒に、テーブルに運ぶ。
「大した物はなけど……」
「そんなことないです」
僕は焼酎の一升瓶を取り出し、氷を入れたグラスに注ぐ。
「君も飲むかい?」
「いえ……」
「そう」
「お酒、好きなんですか?」
「まあね。特に楽しいこともないから、かもしれないけど」
そう言って僕は焼酎をクイッと飲んだ。
「でも、とても美味しそうに飲まれてますよ」
「そうかな?」
さくらさんは美味しそうにビーフンを食べている。
「小森さんはどうして僕のことを知っていたの?」
「それは……」
「じゃあ、どうして僕の家で待ってたのかな?」
「今日、お母さんとケンカしました。とっても些細なことだったんです。それで、家を飛び出して……」
「そうだったんだ。ごめん、聞いちゃいけなかったかな?」
「いいんです。あたし、誤解していたかもしれない」
「え?」
「お父さんのこと」
「そう。でも、誤解は誰にでもあることでしょう? 悪いと思ったら謝る。大切なのは、素直になることだよ」
「そうかもしれませんね。ありがとうございます」
そういった彼女の顔は、出会った頃とは一変し、輝いていた。