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都市伝説

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 しかし、その警察官は全くこちらと目を合わせる事なくすれ違った。二人して見送って、首を傾げる。
「何あれ」
「考え事してたんじゃねえの」
「オカシイって」
 そう、それに自転車での走行を禁止されている歩道で、警察官が平気で自転車を使うというのもおかしい。
 なんとなく釈然としないまま帰宅した兄妹は、当然母親にまた叱られ、父親にも叱られ、それでも反論するでもなく悄然としていたため、比較的早くお小言から放免となった。
 そして彼等の両親は、顔から靴まで前面を泥だらけに汚した娘と、新品同様に大切に使っていた自転車を細かな傷だらけにしていた事に気付かずにいた息子に、揃って首を捻る事となった。

+

 1週間経って、誘拐犯が捕まった。無職の30代男性で、ただ可愛がる話相手が欲しかったと言い切った。
 最初は機嫌が良くてもすぐに怯えたり帰ると言い出したりするので、うるさくなると殺し、そしてまた新しい子供を見つけては攫って来ていた。
 結局のところ攫われた子供達は全員が2,3日で殺され、遺体は犯人の家の庭に埋められていた。
 警察の無能を責める声と加害者の異常な精神状態を作り上げた社会を糾弾する声とに紛れて、子供や兄弟姉妹を殺された家族の悲鳴は、どこにも届く事は無かった。健は少年団の友人の弟の葬儀に出席し、その日は1日中家族の誰とも口を利かなかった。
 しばらくの間マスコミの流す情報は錯綜していたが、やがて有香は健の口にした言葉が案外的を得ていた事を知った。
 犯人は、警察官の制服をどこからか入手していた。自転車を白く塗って改造し、それで子供に近づいたのだと言う。
 少し離れたところに車を止めておいて、「覆面パトカーだ」と嘘を吐いて自ら乗るように仕向けたのだと。子供が警戒せずに後をついて来るように。周囲が見咎める事のないように。
 新聞や雑誌を読んで、兄妹が青くなったのは言うまでもない。あの時すれ違った警察官、あれはもしかしたら犯人だったのかもしれない。次の犠牲者を探していたのかもしれない。
 けれどそうだとしたら、一つ残る疑問がある。トレンチコートの男だ。犯人の持ち物の中にはトレンチコートは無かったと、ご丁寧に書いてくれた週刊誌もあった。
 誘拐犯が捕まってからはその数はぐっと減ったものの、未だに目撃談が後を絶たない。有香が生まれる以前にも、そういった類の、不確定だが日本中を騒がせた異常な存在の噂話が何度も世の中を席巻したという。
 関係ない、やはりただの変な人だと言う人間もいる。しかし、有香にとってはあれは異常な何かだった。人間ではないと思う。あの後、兄妹間でトレンチコートの男の話題を口に昇らせた事はない。軽々しく友人に話す事も憚られたのだ。
 だがしかし、この時になって始めて、口述と噂の中だけではないそんな境界線上の世界がある事を有香は知った。
 「都市伝説」という、灰色の世界の存在を。

                                END
作品名:都市伝説 作家名:あすか