アイラブ桐生 第三部 第三章 39~40
橋本さんは、夕方めかし込んで二人で出掛けました、と説明をすると、
「あのバカ、まだ懲りずに、また女遊びだな。
まあそれはそれとして了解をしたけど、でもあんたは何なのよ。
なんで一人っきりで、ここにいるわけ?」
次から次への矢つぎ早の質問にタジタジとなりました。。
明かりを背にしていたために、顔の表情が良く見えませんでしたが、
チラリと横顔を見せた瞬間に良く確かめてみると、
もっと若そうにも見えました。
30歳そこそこで、すらりとした長身です。
「ところで・・・・そうおっしゃる、お姉さんは?」
「お、お姉さんときたか。まぁいいか、その点は。
私がわざわざ夜中に、ここまでやってきたのには、ちゃんと訳が有るの。
ほら、説明するからちょっと降りてきてごらん、
この目印、これが私たちの合図なの。
分かるでしょ。此処についている、この黄色いハンカチ。」
なるほど、確かに運転席の上にはいつの間にとりつけたのか、
黄色いハンカチが翻っています。
ハイヒールのお姉さんは、両手を腰に当てたまま、まだ憤然と怒っています。
「いつになったら連絡をしてくるだろうと、
こっちは、いつも首を長くして待ち続けていたというのに・・・・
いつまで待っても、無しのツブテだもの、いいかげん頭にきてたのよ。
それがやっと、今頃になって合図が出たと思って来てみれば、
何で、赤の他人のあなたが居て、
当の本人が居ないというのは、一体全体どういうことよ。
分かるように説明をして頂戴な。」
やっとのことでおおかたの、状況が呑み込めてきました。
この性悪女を呼ぶための合図が、運転席に掲げられているこの
黄色いハンカチのようです。
タクシーに乗る前に言っていた言葉は、このことを意味していたようです。
「なるほど、そうすると、
あなたが疫病神の、性悪女ということになるわけですね」
「あんたも、考えもなしに、よく、
そうスト―レートにものが言えるわねぇ。
橋本くんに、そう言えってたぶん吹き込まれたんでしょう。
あの野郎、今度会ったらひっぱたいてやる!。」
じゃあ、そうことでとドアを閉めようとしたら、今度は矛先が
突然こちらへ向いてきました。
代わりに、あんたが責任を取れと言い始めます。
なんの責任ですかと切り返すと、いいから黙って付き合えと言われました。
付き合う? 真夜中に突然現れた女性と付き合うと言うことの意味が
理解をできずに、躊躇をしていたら、外からいきなり
ドアがこじ開けられてしまいました。
「いいから、さっさと降りろ!」
※ご存知でしょうか、映画「幸福の黄色いハンカチ」。
本編に登場した黄色いハンカチと同じく、愛する人の帰りをひたすら待って
柱にたくさんのハンカチが翻がえっていたあのラストシーン・・・・
思わず共感の涙をこぼしてしまった、山田洋二監督によるロード・ムービーの名作です。
高倉健と倍賞千恵子の競演が素敵です。
映画初出演の武田鉄也がコミカルな味を出し、脇役には渥美清と
桃井かおりという、名優たちがそろいました。
信じあう男女の純真な心根を、高らかにうたいあげた秀作です。
この名作は、第一回日本アカデミー賞をはじめ、
この年の国内の映画賞を、ものの見事に総なめにしてしまいました。
いまでも山田洋二監督の70年代を代表する最高傑作だと信じています。 ・・・・
またまた、個人的感想で申しわけありません。(笑)
作品名:アイラブ桐生 第三部 第三章 39~40 作家名:落合順平