アイラブ桐生 第三部 第三章 39~40
ずっと気になっていた質問を、橋本さんに聞いてみました。
「ずいぶん過酷な仕事だと思いますが、
それでも運転手を辞めない理由は、一体なんですか」
まさに、ストレートすぎるといえる質問です。
しかしそんな質問にも橋本さんは、嫌な顔ひとつしないで答えてくれました。
「うん・・・・いい質問だ。
なんでだろうな~、俺が運転手を辞めない訳は」
あたらしい煙草に火を点け、ゆっくりと一息目を吸いこみながら
橋本さんが目を細めたまま、前方を見つめています。
吸うか・・と、箱から一本引き出して、私にもすすめてくれました。
職人が吸う煙草の代表格とされている、ハイライトです。
群馬県の東部に位置する太田市と大泉町には
独自の技術を誇る自動車メーカーと、関西系列の大手家電メーカーの
製造拠点の工場がそれぞれ有り、同時に多くの外注工場と
大小の部品製造工場が
町中でひしめきあっています。
橋本さんのトラックは、
これらの荷物を引き受けて、6日間の日程で群馬と鹿児島とを往復しています。
6日の運転で、全長が3000キロを越える長旅です。
往路は目的地まで一直線の運搬ですが、復路は実に複雑で、
きわめて多岐にわたります。
一括して群馬までの荷物が積める場合もあれば、
数か所で積み込む場合も有るようです。
そうなると帰りの順路ごとに、指定の工場や倉庫へ
荷物を届けなければなりません。
行きは良いよい、帰りは怖い・・・・
出掛けてみなければ先のことは解らない、
そんな航海ばかりだよと、橋本さんは笑っています。
点と点の間を、決められた時間内で移動すること、
それがけが、運転手の仕事だと言いきりました。
使うルートも走る時間帯も本人任せの、「請負の旅」だと、
またまた笑っています。
時間やお金に余裕が有れば、東海や近畿のあたりから、
長距離フェリーに乗り込んで、九州に上陸するという方法もあるそうです。
宴会をして、ひと寝入りしているうちに九州へ着くんだぜ・・・・
まったくの楽勝ものだ、と説明をしてくれました。
ただし予算に余裕がないときには、全線を下道(一般道)だけで
延々と走り続ける場合もあるそうです。
作品名:アイラブ桐生 第三部 第三章 39~40 作家名:落合順平