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アイラブ桐生 第三部 第三章 39~40

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 「心配すんなって。
 今日の昼間は、ここで休憩だ。
 出発するのは、早くても夕方からだ。
 昨日のことは忘れて、軽く飲んでから、ひと寝入りしょうぜ。
 そのうち、兄貴も帰ってくる」


 俺の方が苦戦するかと思ったら、
予想に反して兄貴のほうが手こずったみたいだ。
俺はすぐに切れちまうが、根性が足りないから、後で愚痴をこぼしておしまいだ。
兄貴は忍耐強いが、一度きれると手に負えねえ・・・・
俺たちは、二人を足して二で割ると丁度良いんだがなあ、と岡部君は笑っています。
最初の荷物降ろし終えた橋本さんが、ようやく戻ってきました。



 「お、早いな、もう飲んでいるのか。
 お~い、俺にも一本つけてくれ!とりあえず、軽く飲んで俺も寝るぞ」


 さすがに疲れは隠せません。
熱燗を一本頼んで、ツマミ代わりに朝食を軽く食べた橋本さんは、
先に寝るぜと一言いい残し、早々と簡易仮眠所のほうに行ってしまいました。


 「寝ずに走れば、飯だって旨くは無いさ。
 運転手だって人間だ。人並みに眠くもなるし、腹も減る。
 まったく、時間までに荷物を届けるために、どれほど神経をつかっているか、
 誰も理解をしょうとしゃしない・・・
 因果な家業だぜ、まったく」


 俺も寝るぞと、岡部くんも立ちあがりました。
「じゃあな」とふらつく足取りで、仮眠所の方へいってしまいました。
「食べなよ」突然、 厨房からお婆ちゃんが漬けものを持って現れました。
テーブルの上に残っていたビール瓶を手にすると、
黙ったままグラスに注いでくれます。


 「こういう世界は初めてかい。
 世間は高度成長だなんて浮かれているけれど、
 日本の物流は、あんな連中が夜中じゅう走りまわって、支えているんだよ。
 運転手と言う職業は、『雲助』なんて言われて嫌われているけれど
 私らだってその運転手のおかげで、おまんまが食えているんだ。
 長距離の運ちゃんと、深夜営業の食堂は、
 お互いに持ちつ持たれつの関係だ。
 残すんじゃないよ、全部呑んで全部食べるんだよ。
 食べ終わったら、あんたも寝た方がいい、
 この先も長いんだろうから」




 しかし結局、4時間ほどのの仮眠を取っただけで
橋本さんの10トントラックは、また走りはじめました。
朝のアルコールはまだしっかりと残ったままです。
これは立派な飲酒運転です・・・・


 後年になってから、長距離便や大型トラックによる飲酒運転が原因の
悲惨な交通事故が、各地で多発するようになりました。
運転手の自制心やモラルが厳しく問われるようになりましたが、
ある意味、必要悪としての飲酒癖が、すでにこの頃から蔓延をしていました。
物流の背景に有るこうした過酷な現実が、運転手たちを精神的に
追い詰めていたのも、またまぎれもない現実でした。
かれらもまた、過酷な輸送条件の中で、
必死になってその責務を果たしてきました。
張りつめた気持ちとそれらの緊張感の繰り返しの中で、
気持ちが緩んだその瞬間に、当然のごとく気休めとしての酒が入ります。


 呑まなきゃ、やっちゃいられないぜ・・・・
そんな運転手たちのやるせないつぶやきが、私の耳に残りました。
しかしすべてのドライバーが、飲酒をしながら
運転をしているわけではありません。
大多数のトラック・ドライバーたちは交通法規をきちんと守り、
許される範囲での飲酒にとどめて、安全に荷物を運んでいます。
おおくの人が真摯にハンドルを握り、その仕事をまっとうしています。
しかしその反面で、こうした人たちが存在していたことも、また
まぎれもない事実です。



 ほんのすこしの仮眠をとったあと、
橋本さんのトラックが目指しているのは、神戸の西宮でした。
出来たばかりの名神高速道路をめざしています。