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藤森 シン
藤森 シン
novelistID. 36784
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仏葬花

INDEX|40ページ/40ページ|

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それにシヨウには他に一生かけて考えたい事柄が出来たので、きっぱり言い切れるわけではないが、昔ほど頼らなくても平気な気がした。
「逃げるのは私が許しません」
「あの人達には何を言っても無駄だよ」
「でも、何もしないのは絶対何も変わらない。何か言ったら何か変わるかもしれない」
「うん、変わるかもしれない。でも変わらない確率が遥かに高い」
「その時は・・・。困った時は呼んでください。どこへでも行きますから」
「いや、君には無理だし」
ベリルが剣を携える。自分の荷物の一部としたようだった。
「先生・・・また会えますか」
「さあ。気が向いたら来るかもね」
彼特有のどうとでもとれる表情だった。
「君はこれから友達や仲間を作らなくてはならない。せめて、仕事の話が出来る会社とは関係のない、外の知り合いを。シヨウに出来るかな」
「そんなこと・・・」
言い返そうとしたが遮られる。
「ほら。また生きる目的が出来た」
「その程度は目的になりません。それに、それは自分で考えます」
あの坂で見た彼の泣きそうな笑顔。
そんな感情を向けられる何かを、与えただろうか。

いつもの民家の支社で、シヨウは食べていた。明らかに摂取過多だったが無視。現代人はほとんどがそうだ。
「シヨウ食べ過ぎー。いくら病人だからって・・・太るよ!!」
「私は、意外と浪費家です。その資格が無いからやらないだけで、もし出来るなら浪費しまくります」
「えー そうなの?」
「節制をいくら頑張っても、自分の頑張り以上に浪費する人間がいる。そういう人が見えるところ、例えば身内に居たらやる気無くならない? 何も考えていないのか丸っきり頭に存在しないのか・・・裕福だということにまだ気が付いていない。そういう人達は、やらせておけばいい。そうね、その人達の子孫がせいぜい苦しむように超浪費・・・・・・いえ、これ以上はやめましょう」
「相変わらずシヨウはシヨウのままだねえ」
そう言って目の前の席で素敵な笑顔をしている。
「すっごく、褒められていない気しかしないんだけど」
「んーこの生地おいしい! 甘すぎないしふんわりしてる〜とろける〜」
その姿をしばらく睨んでいたが、ものともしていないので諦める。再び食べ出す。
「は〜学校どうしようかな」
菓子をつつきながらリアは言った。咀嚼しながら考えていたところ、彼女は続ける。
「ま、学校のことはシヨウはてんでだから、仕事のことを教えてね」
「うん。そうなの。仕事のことは、まあなんでも訊いて」
「ね、ところでさ。シヨウは長生きの秘訣って何だと思う?」
「食べ過ぎない?」
「ああん、違う。なんというか・・・一生保ち続けていられるもの」
「そんなもの無いでしょう」
「えー。未来ある若者に世界は終わっているなんて言わないでー」
「何言っているの、永遠じゃないから良いんじゃない」
「どうして?」
「放置していても維持出来るものを、大切にする?」
「えー、ちょっと待って? んー、なんか違う。何かが違うよ。もう」
彼女特有の人懐っこい笑顔で言う。
「本当、シヨウって面白いよねえ」
口に菓子を放り込んだ。
「ところで、ジードって・・・、シヨウの会社に入社したんだってね。先生に聞いた。それも、結構前に契約交わしてたみたいだし」
「時期は知らないけど・・・」
「それはそうなんだけど。私にもシヨウにも詳しく言ってないし。会いに行こうよ。そうだよ、今すぐ!」
「今すぐは無理だから・・・。仕事あるし」
「じゃあ終わったら!」
「終わったあとに、ほいほい行けるような距離じゃないよ。あそこの島は。それに部署が違いすぎる。私は外だし・・・」
「じゃあ次の休みは!?」
「次の休みは用事があるから無理」
昔の同期と会うのだ。
「・・・でも日にちを決めるのは、良い考え。来月頭にしましょう」
これを何と言えばいいのかわからない。一番当て嵌まるのは、
また話がしたい。
以前と同じとはいかない。それなら、新しい別の関係を作ればいい。
万人へ捧げる、あの笑顔の理由を知りたい。












フリークスを調べるために街に留まっていた。その途中で聞こえた声。
泣いていたのは手折れた花だと思った。でも違った。その声を辿った先にいたのは。
昔、病院に居たあの子に見えた。彼女の心は沈んでいた。
しかし人間の記憶は曖昧で、もう確かめようはない。

「でも・・・シヨウが味方なら心強いかも」
「ふうん、そう」
あっさりと手が離れた。
頬が外気に晒され、一層、暖かかったのだとわかる。彼女なりに元気付けてくれたのだろう。彼女の心はとても心地良い。ノス・フォールンに慣れている。

涙を見たからではないと思う。
彼女を、血も涙も無い人間と思っていたわけではないが、驚いた。自分の言動に後悔する。自分の大切なものなど、他人には全く価値のないものだったりするから。
人間へ向けた刃を思い出す。光を受けて反射する。
彼女は笑っていた。気がかりなのはそれだけ。

人の心を覗き見ることはノス・フォールンには呼吸や瞬きに等しい運動。いちいち反応していれば疲れてしまう。だから雑音として処理している。耳で聴く音よりも心の声のほうがうるさい。
醜く卑劣で、矮小で卑屈で。
とても複雑で素直。立場や建前を簡単に凌駕する。
音声の声よりそちらのほうが好きだった。

「あいつの心を見ろ」
仲間内ですら冗談で時折飛び交う言葉を、一度たりとも言われなかった。
意外と泣き虫で、世話をするのも嫌いではなさそうで。どんなに冷静で強くてもきっと無理だと思った。
自分と出会った後も頻繁に記憶を引き出している。
樹を見上げても、流れる雲を眺めても。
そのオウカを手にかけた自分を、彼女はきっと忘れない。
許してなんて言わない。終わらせない。
触れられないことよりも怖いことがあるとわかった。
一緒に居る引き換えに、死んだ後の一生を手に入れた。




(完)




作品名:仏葬花 作家名:藤森 シン