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藤森 シン
藤森 シン
novelistID. 36784
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仏葬花

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早起きの年寄りが起きるよりも更に早い時間、シヨウは村の入り口とも言える大きな樹の前にいた。正確にはかつてあった場所にいた。樹が無くなったことにより、風は無音で強く吹き抜ける。オウカはなかなか来なかった。
ようやく彼の姿を道の遠くに確認出来た。思わず駆け出し、声の届く距離になった矢先、彼は後ろからフリークスに襲われる。
危ない、後ろ、など言う間もなかった。頭脳を侵食されるのはノス・フォールンの彼にとって死に等しい。貰ったばかりの剣は役に立たない。恐怖で近づけない。
優しい彼の口が確かに「逃げろ」と動いた。
彼女は逃げた。そのまま村には戻っていない。

「簡単に言ってしまうと、少し前から被害が出ていてな。正式に駆除の対象となった」
あれやこれな権限を使って弊社以外が手出ししないようにした、とレンジェは説明した。ヨーギであるベリルは早くも、飽きているという仕草を隠さない。
「それで? この書類は?」
「手出ししません・何が起きても訴えません、の書類」
シヨウは一瞥しただけ。触れもしない。
レンジェは椅子に座るシヨウの前を行ったり来たりしている。
「日程は一ヶ月、も無いか。そうそう・・・お前はその日有給になっている」
ベリルと会社をあとにする。
「何も、君が思い詰めることはない。逃げる・・・という言い方は負の印象かもしれないけど、逃げてもいいと思う」
「逃げる、ね」
「僕もその口だから」
「先生も・・・逃げてきた? 何それ。何から逃げてきたの?」
なんだか可笑しくて笑ってしまう。
「うーん。何もかもってところ。子供なんだよ。最近はそれも気にならなくなってきたから余計に酷い」
「先生でも逃げることがあるんだ」
「そう。それも笑ってしまうほど遠くへ来てしまった。かつてのノス・フォールンと同じくらいの移動距離」
「本当に遠くから来たんだ・・・」
そしてあの村へ・・・と感慨に耽そうになる思考を振り払う。
「迷って考えて、考えすぎて何もしないほうが僕にとっては嫌だったから。じゃあ逃げてしまえって」
大きな風が吹いた。
「先生は、フリークスが人間の言葉を理解出来る頭脳を持っていると思う?」
「わからない」
「では、人間の心はどこに生まれると思う?」
「心臓ではなく頭脳」
「じゃあ・・・」
「シヨウ」
心臓が一度大きく動く。
「フリークスとなったオウカがどういう状態なのか、それはわからない」
「先生・・・オウカは」
「体は生きているけど、頭脳は動いていない。文化を生み出さない。温もりがあるだけで価値があると姉の君が言うなら、それでいいのでは? 全力で止めればいい」
彼は一気に距離を詰める。
運命を告げられる。
「どんな選択をしても後悔のないように」







作品名:仏葬花 作家名:藤森 シン