仏葬花
躊躇う瞬間なんてまるでなかったように感じられた。
自分はその行動を起こすことさえ出来ない。
遅々とした勤務が終わり、公園に向かった。もう日が暮れる。家路に向かう人とは反対方向に一人だけ歩く。
待ち合わせの、草が盛り上がった広場が見えてきた。
セリエがいる。声を掛けようとした。
けれど彼は跪いて。
その彼の後ろに黒い影。
鈍く光る何かが振り落される。
失敗した雪だるまの頭が落ちるように。
セリエの首が落ちる。
見える位置まで来た。あまりに赤い集合体のために、どす黒く見える血が草に広がっている。木々の向こうに人がいる。あちらにも、そちらにも。でも誰も近づこうとせず、声も出さず、遠目から窺っているだけ。
剣を携えた黒ずくめの男があの朝と同じように言った。
「シヨウさん。やっと来てくださいましたね。来なかったらどうしようかと思っていたんです」
「あなたは、一体・・・」
「これは私の意志ではありません」
「でも、あなたでしょう、あの封筒を届けたのは」
「ジイドさんを使って」
シヨウはますます睨む。
封筒の中身。故郷の資料。
フリークスに襲われた村。
封筒に押された仏葬花の紋を思い浮かべる。
あれは、彼女の所属する会社の社紋。