小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
厄宮 殺那
厄宮 殺那
novelistID. 36716
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

無能の中にも、一人くらい有能がいるはずだ

INDEX|3ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

「いいわ、なんとなくだけどわかりました。この子は任せて。君はもう戻っていいわよ」
「はい」
保健室の時計を見れば、もう二時間目半ばの時間まで来ていた。
やばいな。
静寂の廊下を早歩きで、教室へ戻る。

後ろのドアを開けたら、全員の視線が向けられた。
当たり前か。
俺の右手には、蓋の開けられていないペットボトルが握られている。
冷や汗と、ジュースの汗が混じって気持ち悪い。
「いきなり、授業に遅刻なんて、余裕ねぇ」
挑発したような口調で、先生が言う。
生徒の視線は、まだ向けられたままだ。
「すいません」
軽く頭を下げて、端の席まで歩いていく。
イスを引くと、そこには女子が使うような消しゴムが転がっていた。
視線を上げると、隣の席の生徒がチラ見。
視線が合った。
「あっ」
女性徒が微妙に声を漏らす。
消しゴムを落としたところに、ちょうど俺が入ってきて取れなかった。
そんなところだろう。
「はい、これ」
消しゴムを拾い、女性徒の机に置く。
「あ、ありがとぅ」
消極的な声で、感謝の意を表される。
言うと、すぐにその消しゴムを使い始めた。
「あぁ、別に」
少しだけ戸惑う。
ありがとう、なんてここのところ、全然言われたことがなかった。
日常会話の代表的言葉が、こんなに新鮮に感じられるとは。
新鮮が新鮮で新鮮だ。
この時間も学活。
委員会やら、クラス係を決める時間らしい。
黒板に生徒の名前が何名か書かれている。
この時間は、最後まで静かだった。
最終的に、クラス委員と図書委員の男女一名ずつが空き。
しょうがないので、明日の朝学活の時に決めることになった。

チャイムが鳴った後、すぐにジュースの蓋を開けた。
中身はぬるくなっていて、炭酸もかなり抜けてしまっていた。
奇跡的に泡が噴射してこなかったのはありがたい。
「ざけんなょ」
小さくこぼす。
やけくそ混じりに一気飲み。
ぬるい砂糖水の甘ったるさが口の中に残っている。
「ねぇ」
いつの間にか目の前にいた男子生徒が俺を呼ぶ。
「何?」
冷静に対応。
もう少し、フレンドリーな感じでも良かったかも、と少し後悔。
「初めに、俺は山本爽っていうんだ。転校生の宮本、だっけ。まあ、よろしくな」
他の生徒と少しタイミングが違うだけで、こうも印象の残り方が違うのか。
なぜか、かなり良い友達になれそうな予感がした。
「こっちこそ、よろしく」
小さく返す。
「んで、なんで遅刻したの?」
やっぱり、そこは問われるのか。
「いろいろ、やばかった」
やっぱり、抽象的に答える。
さっきあった事を真面目に話すと、俺がどこぞの不良みたいじゃないか。
まあ、間違ってもいないけれど。
的を掠めて、くらいはいるか。
「いきなり、喧嘩でもしたの?」
かなり興味ありげに質問詰め。
「からまれた」
一言、そう返す。
「あ~、やっぱりそうかと思った」
読まれていたかのようで、少し驚く。
「だってさぁ、そのジンジャーエル」
爽は空になったペットボトルを指して言う。
「不良の溜まり場になっているとこの自販にしか売ってないやつじゃん」
そうだったのか。
この学校にある自販はそこしか見ていないので、解からなかった。
「へぇ」
少し、納得。
「通りで」
「あそこの奴ら、頭のねじ飛んじまっている奴らもいるからさ」
今度は普通に納得。
でも、動物的本能はしっかりと残っていたみたいだが。
恐怖って奴だ。
「その自販の周りのこと、テリトリーとか言っていたな」
あった事を、少しだけ話してみた。
「それ、面白い」
快活に笑いながら、爽は言う。
「あほ過ぎだろ」
俺もノリで冷静に最悪なことを言う。
その後も、囲まれて殴ったこと意外は、笑い話にして、愚痴や侮辱話をして、十分が過ぎていった。

チャイムと同時に先生が部屋に入ってくる。
あれれ。
悪寒、が体を支配している。
さっきからだけれども、今まであった過去出来事がなぜだか頭の中を走馬灯の如く駆け巡っている。
ムカつく。
先生は前で何かを話しているみたいなのだが、全く頭に入ってこない。
次第に、眠気も襲ってする。
死ぬのだろうか。
思考回路もかなり停止している。
「んだ・・・これ、やばぃ」
かすかに出てくる声をキャッチしてくれる人は誰一人いない。
どうなるのだろうか。
そのまま、眠りへと落ちていった。

「・・・い・・・めぇ、聞いてんのか」
「んん、ふ、はぁ」
目が覚めたいみたいだ。
起こされた、と言うのが正確なところか。
顔を前に上げる。
目の前には、人人人。
無数の男子生徒が俺の席に集まっていた。
「あれ、授業は・・・・・・」
状況が把握できずにいる。
まだ、夢現な視界が広がっているのだ。
目の前の男子生徒が机を蹴り飛ばす。
と、同時に夢現だった視界が明確なものに戻される。
太陽は、俺らのほぼ真上を通りかかっていた。
何か見た夢の記憶もどこかに吹っ飛んだところで、ようやく状況の認識が追いつく。
「えぇと、さっきの腹いせ?」
「なに、余裕ぶっこいてんだよ」
かわすことは愚か、防御さえもできない。
手は、頭の圧迫のせいで、血が通っていないみたいだ。
寝起きの一発。
顎が机に思い切り打ち付けられる。
ここらにいる生徒は全部さっきの奴らの仲間なのだろうか。
他の生徒はどうしたのだろうか。
そんな事より、今はこっちか。
痛くなかったといえば嘘になるが、それほど多くのダメージは受けていない。
とりあえず、抑えられた背中を力ずくで持ち上げ、窓をでて、日除けに飛び乗る。
体勢を崩して落ちたら、かなり痛そうだ。
窓の中からは、不良たちが押し寄せてくる。
校舎の下には、幾人の生徒がこちらを見上げている。
見ている人はどう思うだろうか。
日除けを伝って、隣のクラスの方へ移動。
不良たちは込み合っているようで、窓の外には出られないようだ。
窓をノックして、中の生徒に開けてもらうように、頼む。
「何しているの!?」
かなり、怖がられているようだが、気にせず、廊下に直行。
廊下に出るとすぐに、不良たちは隣のクラスから出てきて、俺を追った。
体力で負けるわけはないが。
鬼ごっこ状態だ。
後ろからは十人以上いる不良の大軍。
廊下ですれ違う人にいちいち、ごめんと声を掛けた。
聞いたときは、きょとんとするが、後から来る不良を見て、かなり驚いていたようだ。
二十分くらいの鬼ごっこの末、どうにか撒いたようだ。
今期初めの登校なので、朝の四時間だけの授業だ。
他の生徒は、食堂やら、そこらで昼飯を集まって食べていた。
家に帰る生徒もいるだろう。
俺も混ぜてくれればいいのに。
少し、嫌悪感。
カバンは教室の中だ。
金も弁当も持っていない。
どうしたものか・・・・・・。
交戦覚悟で、教室にバッグを取りに行くことに。
意外なことに、誰にも絡まれることは無かった。
誰とも会わなかったのだ。
人一人ともすれ違わなかった。
教室でカバンを取り、校庭の段差で弁当を一人寂しく食べることに。
広がる校庭に、何人かの生徒が、ドッジボールやら、バスケットボールをして遊んでいる。
遠目で見れば、結構の人が、芝生の方で昼を食べていた。
昼食の時間は校内に人はいないものなのだろう。
それにしても、今に思い出す、あの嫌な感じ。