無言歌
吉野が自動販売機コーナーから部屋に戻ったのは、あれから三十分ほどしてからだ。シャワーを浴びてベッドに入ったが眠れるはずもなく、また隣で眠る関目の寝息を聞きたくなくて、朝までテレビをつけたまま過ごした。うとうととしかけた頃に目覚ましのアラームが鳴り、ほとんど眠らぬままに起床した。
窓際の席で陽の光が目に眩しかったが、気にならない。大らかな関目の話し声がちょうど良い子守唄になっている。
「係長?」
「…着いたら、起こしてくれ」
辛うじて彼にそう言うと、吉野は目を閉じた。
目覚めたなら、今度こそ、いつも通りの自分に戻れるはずだ。昨夜の自分は、あの『時間』に置いていく。
だから、これで最後。
――好きだ