ひとつぶ
複雑な事情で通夜も葬儀も、出来るだけ近い親族だけで行うことになった。焼香に訪れる客もまばらで、部屋は人気(ひとけ)がない。この伯父は、今回、兄と一緒によく動いてくれて、今夜も寝ずの晩を一緒にしてくれることになっていた。父が出て行ってからは、弟の不実を申し訳なく思っているのか、私達の後見人を買って出てくれた人でもある。
「妻孝行?」
「そうや。病気の進み具合によっては、ここが一等最後になることもあるんやそうや。そうなったら、いつ終わるとも知れん」
伯父は胸の辺りを指差した。
「それにな、復縁が間におうて、美晴さん、遺族年金が下りることになってなぁ。あいつは放蕩もんやったけど、会社はきっちり勤め上げとうから、そこそこもらえる」
母に父との復縁を勧めたのは、この伯父だった。三十年近く連れ添っていたのだから、せめて年金は受け取れるようにしたらどうか、この先どれだけ寝込むかわからないし、苦労するばかりで何も残らないでは、あまりにも割が合わないからと。
「伯父さんには今回、いろいろお世話になりました。母も兄貴も心強かったと思います」
伯父はすっかり禿げた頭を撫でて、「いやいや」と手を振った。
蝋燭が短くなってきたので、新しいのに火を移す。
「まだ顔、見とらんのやって? あんだけ嫌ろうてた美和ちゃんかって、ちゃんとお別れしとったぞ」
蝋燭を替えて元の席に戻った私に、伯父は複雑な表情で言った。非難しているわけでもなく、だからと言って、私の行為を肯定しているようでもなかった。
「あいつは本当にしようのない奴やった。でも、お前達がこまい(幼い)時は、よう可愛がっとった。それは覚えとうやろ?」
私は曖昧に頷いた。伯父の思い出話は続いて行く。そうやって、諭しているのがわかった。