cosmos
そこだけ広く空間になっている場所に堂々と歩んでいくのを、これから何が起きるのか、その場にいる全員が固唾を飲んで見守る。
玄関の靴箱前に置かれた木のすのこを踏んだ音で、ようやく宇宙人がこちらに気付いたようで、下げていた顔をこちらに向ける。
普段は寄せられないような視線がじっと俺の背中に突き刺さってくるのを感じながら、俺は短いとも長いとも言えぬ時間宇宙人と見つめ合う。
先に動いたのは、宇宙人だった。
「あ、おかえり昴」
そう言って、満面の笑みを浮かべた宇宙人に、俺は一言、
「五月蠅い馬鹿」
そう言って、真横にある自分の下駄箱の扉を開けた。
自分の靴を取り出して、上履きと履きかえる。
馬鹿呼ばわりされたプレアデスと言えば、唇を尖らせて「馬鹿とはなんだよ」と不満げに言う。
「せっかく傘持ってないだろうと思って迎えに着てあげたのに…」
「その割になんで傘一本しか持ってないんだ」
「だって家にコレ一本しかないじゃないか」
「………」
なるほど、そういえばそうだった。
後々新しい傘をもう一本買ってこようと決めて、とん、と爪先を叩いて踵まで靴を履き終えると、見計らったプレアデスが、最近あまり見ない気がするワンタッチ式の傘をぽん、と開く。
透明なビニールの、なんでもない普通の傘だ。片方が不自然に開けられたその傘の中に身を入れ、何事も無かったように二人歩きだす。
その様子を、玄関でずっと見ていた生徒たちは、唖然とその二人の背中を見送っていた。
途中から他人のことなどアウトオブ眼中だった昴は、後でそのことを思い出すのだが、やはり「まぁいいか」で済まされたというのはまた別の話である。