cosmos
第一夜
俺は昴。星だ。
・・・嘘だ。
そして俺の部屋で勝手に寛いでいるのはプレアデス。宇宙人だ。
・・・これは本当。
なぜって、それはこの目で見たからに他ならない。
こいつは、信じられないことに(その言葉の通り)身一つでこの地球にやってきた。
そして信じられないことに勝手に俺の部屋に居候している。
押しかけ女房でももう少し遠慮がありそうなものだが、そもそも宇宙人のこの男(?)にはそんなこと言っても仕方ない・・・と割り切ることにしたのはつい最近の話。
人間になりたいんだ
昔そんな妖怪のアニメがあったが、まさか自分が実際そんな事を言う宇宙人と出会うなんて、想像もしなかった。
宇宙人がいるということに驚きはしなかった。広大という言葉では表せないほど広い宇宙の何処かに、他の生命が居て、なんらおかしいことはない・・・と俺は考えている。
むしろ、宇宙人がいたことに喜びを覚えたほどだった。
俺は宇宙飛行士になりたい
宇宙人からの告白に、俺は思わずそう答えていた。
言った後に、俺は何を言ってるんだと後悔したが、宇宙人はお構いなしに言った。
そっか、じゃあ・・・
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「じゃあ、友達だ」
「・・・はぁ・・・」
何言ってんだこいつ。
「名前なんてゆーの」
「昴」
「ホント?俺プレアデス」
おそろいだね
そう言って笑った宇宙人に、俺は無表情のまま頷いた。
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と、そんなやり取りがあったのは数か月前。
「すーばーるー!ちょ、背中掻いて!背中!痒い!!」
「………」
「無視しないで!お願い!お願いしますぅ!!」
(うるさい……)
わざわざ立ち上がってベッドに寛いでいたプレアデスの元へ寄ると、「ここ!」ともどかしそうにしている微妙に手が届いていない箇所を掻いてやる。すると、先ほどまでの騒ぎが嘘のように静まって、プレアデスは気持ち良さそうに目をつぶった。
「あー、幸せ」
「はいはいよかったね」
最後にべし、とその背中を叩いて元居た自分の勉強机に戻ろうとすれば、なぜか腕を掴まれた。
そのまま引きずるように傍に寄せられて、仕方なくそちらに振り返る。
「いい加減暇なんだけど」
ぎゅ、と腰にしがみついて言うプレアデスの頭を叩く。
「俺は暇じゃないの」
だから放せ、という言葉は聞こえていなかったようで、もしくは意味を間違えたのか、宇宙人は更に巻きつきをきつくした。
あれ、お前日本語理解できてたんじゃなかったっけ?
そんな事を考えていたら、気を抜いた隙をつかれて、いつの間にか体はベッドに倒れ込んでいた。
「……いい加減警察呼ぶよ?わいせつ罪で」
「え、ちょっとそれはひど…」
「黙れわいせつ物」
「!?」
目の前にあるライトイエローの瞳が動揺に泳ぎまくっているのを見て、溜息をつく。
「嘘だ」と言えば溺死寸前だったそれはぴたりと安堵を見せた。
「……」
「……?」
何となく黙ってそのままライトイエローを見つめていると、不思議そうな色を浮かべたライトイエローもこちらを見つめ返してくる。
「………」
「………」
プレアデスの瞳は、人間にはありえない色をしている。
だって、宝石のようなのだ。瞳の色も、瞳の中も。
一見ただのライトイエロー一色の瞳は、こうして近くで見るとキラキラと何かを反射しているかのように所々が輝いていて、これだけでもずっと見つめていられそうなほど綺麗だ。
本人には絶対に言わないが、俺はプレアデスの瞳だけは好きだった。
「うん、綺麗」
「…!?」
まさか心の中を読まれたのかと思ったが、そうではなかったようで、
「俺、昴の目って好き」
「……はぁ?」
「故郷を思い出すよ」
「故郷?」
「うん。昴の目ってちょっと紫がかってるからさ、光の加減で夜空みたいに見える」
「夜空…」
言われて、無意識に自分の目に手を添えた。
「俺、昴の目好きだよ」
「……キモい」
眉を思いっきりよせて言えば、プレアデスは「ひどいなぁ」そう言って、困ったように笑った。