スケートリンク
「ふたり共元気なの?」
池上はもう五年も帰省していなかった。
「うん。元気だよ。田植えの準備で忙しくしているよ」
「そうか。そういう季節になったんだな。兄貴も田植えを手伝う?」
「一応そのつもりだけど、本業が忙しいからな」
「儲かってるんだね?」
光太郎は寿司屋の主人だった。開業してから十年以上になるだろうか。
「まあな。ところで、お前はまだ結婚しないのか?」
兄が結婚したのは五年前だった。
「タクシーは安月給だからね、難しいと思うよ」
「相手がいないのか?」
「残念ながら、いないよ」
そう云いながら、池上は昨日の乗客の顔を思い浮かべていた。
「そうか。実はな、お前を婿養子に迎えたいっていう話があるみたいだ」
「へえ。どこからそんな話がきたんだろう」