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牙狼<GARO> -MAKAISENKI-外伝・落日の都

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「まあでも、やるしかないか」

 落日の都への鍵は恐らく魔界のどこかに封印された。それを取りに行くためには加護を受けた魔戒剣にホラーを封印させることが条件となる。一先ずは今まで通りに指令を受けて、ホラーを狩らなければならない。マキナは今、高層ビルの屋上で一人の女性に切っ先を突きつけている。時間は既に夜、月が高く昇る頃だ。

「魔戒騎士か…」

「そういう事、悪いがおとなしく斬られてもらうな」

 女の眼光は白く濁り、人の気配の代わりに邪気が滲み出ている。声はダブるように恐ろしい魔物のそれが重なり、低く腰を落とした女性らしからぬ体勢から、マキナへと飛び掛かる。
 対しマキナは伸びてきた蹴り足を掴み、空中で相手の動きを止める。が、それを軸にして体を駒のように振った女は遠心力を乗せた蹴りを側頭部目掛けて放つ。常人ならば確実に卒倒する一撃を腕に受けて、体を投げ飛ばす。

『…ホラーね、間違いないわ』

「見りゃわかるさ…!」

 今度はマキナが仕掛ける番となる。コートの内側に隠していた剣帯から引き抜いた魔戒剣を構えての突進をかけ、間合いに入るや否や横一線、膝下を斬り飛ばすように剣を振るう。それを飛び上がって避けた女、基い彼女に取り憑いたホラーは二段蹴りを顎下に狙いを定め打つ。それを鞘で弾き、空中に浮いたホラーの腹部に鞘で殴打を叩き込む。屋上のフェンスが大きくたわみ、そこに持たれるような形で女の顔が醜く歪み、体を起こすと同時にその肢体が崩れ、すぐさま別の物へと変質した。

『…ホラー・ガルメ。来るわ、マキナ』

 足の間接が鳥のように人と逆向きに曲がっているホラーは、柔らかく溜めを行うと一気に突進を掛けてきた。魔戒剣を正面から叩き込む。しかしソウルメタルが、そのきらびやかな外殻に激突し、甲高い金属を音を上げた。女の顔をそのまま自らの顔としたホラーがニヤリと微笑む。

『美しい宝石に宿り、その堅牢さを武器にするホラーね…マキナ、生半可な太刀筋では通らない』

「手厳しいねぇ…」

 マキナは、魔戒剣の切っ先を天に向けた。そのまま天に円を描くと光が満ち、ソウルメタルの鎧が召喚された。赤と赤銅色の、東洋の鎧武者にも見える大きな肩当てを持つ鎧。不退転を体現した威風堂々たる姿は、再び突進を掛けてきた堅牢なガルメを拳一つで弾き返した。
 超質量のソウルメタルに覆われた魔戒騎士の鎧の重量は無限大であり、また羽のように0でもある。所有者の心一つで自在にコントロール出来るソウルメタルに可能な限り質量を乗せ、真正面から粉砕するのが、不転騎士・ラゴウとしてのマキナの戦い方でもある。
 ガルメは肉弾戦が通じないと理解するまでは早かった。すぐさま持ち前の跳躍で宙へと飛び上がると外殻に埋め込まれた結晶体を隆起させ、細長い構造体として投擲した。身の丈ほどもある大太刀を、ラゴウが鞘ごと構え、一本目の構造体を打ち払う。

『そらよッ!』

 続く次弾に向けて、鞘を投げると両者がぶつかり、その軌道を狂わせた。両者が屋上に弾き、転がるのを見てラゴウが跳ぶ。大太刀・羅轟剣を大上段に構え、繰り出すのは真正面から叩きつける斬撃だ。しかしそれは外殻に阻まれ斬り裂くまでには至らなかったものの外殻に深い刀傷を作り、ガルメは超重量の一撃に床に叩きつけられた。

『おらあぁぁぁあっ!!』

 一刀の打撃に近い攻撃と落下の衝撃とで、僅かに体勢を整えるのが遅れたガルメの真上から、ラゴウが降ってきた。拳を叩き込み、勢いを乗せた一撃が大気を震わせる。凄まじい力に床が砕け、ラゴウとガルメは高層ビルの吹き抜けを落下して行く。

『マキナ、踏み込めないと刀が通らないわ』

『へっ、だったら…!』

 ガルメは剣で打ち返される反動で何度も体当たりと、槍のような結晶の構造体でラゴウと打ち合う。対しラゴウは、大振りの太刀の殆どが、踏ん張りが効かない空中であるために有効打にならない。魔導刻は鎧の召喚限界を知らせてゆく。長くは保たないことはマキナとて理解しているのだ。
 ラゴウは意を決し己の真上を取ったガルメ体当たりを受け止めた。落下の力でソウルメタルが火花を上げるのにも構わず、ラゴウはその状態から、真上に向けてアッパーを放つ。天井に向けて飛び上がっていったガルメが、途中の鉄骨に叩きつけられた。
 それを見るや否や、吹き抜けの柵に手を掛け、コンクリートを砕きながらラゴウが強引な減速を掛ける。轟音を立てながら鉄骨の足場に着地し上を仰ぎ見れば再び落下の勢いに乗り、ガルメが構造体を正面に突き出すように構え突貫してきた。
 それを見たラゴウが魔導火を取り出す。羅轟剣の背に真っ白な火を移すと、瞬く間に刀身を包み込み、電源の落ちた、奈落を思わせる吹き抜けを煌々と照らし出した。ラゴウの一振りで天へと、落下してくるガルメを迎え撃った炎が作り出した三日月型の大きな刃が、ガルメの身体を焼き、幾重にも分裂したそれが連続でぶち当たり突撃の勢いを殺して行く。
 もはや醜い悲鳴と共にただ落下するのみとなったガルメを見据え、ラゴウは刀を構えた。――烈火炎装。既に羅轟剣だけでは無く、そこから伝播し全身を白く燃やす魔導炎を纏い、ラゴウが真っ直ぐ落下してくるガルメを迎え撃ち受け身も取れずに落下していくその身体を擦れ違い様に真っ二つに断ち割った。
 階下へフェードアウトしていく醜い断末魔と、下から響いてきた爆発音を聞き、マキナは鎧を解除した。魔戒剣の切っ先を見つめ、それを鞘に納めると、火災報知器がけたたましく鳴り響くなか、踵を返す。

「親父…か、ラゴウを継承した時に割り切ったはずだったんだがな。そう簡単には行かねぇか…やれやれ。帰ろうジルバ、『Golden Wolf』で一杯やろうぜ」

 マキナは疲れたような苦笑混じりの言葉と共に、高層ビルを脱出し、彼の嫌う魔戒道の中へと消えていった。