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しっぽ物語 9.おやゆび姫

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 比較的穏便だった前の院長が老齢により職を辞した後、入れ替わりに赴任してきた男は、まだ神学校を卒業したばかりの若造だった。白と黒の装束が入り乱れる教会病院はさながらオセロのようだったが、残念なことにどれだけ頑張ったところで石の色は反転せず、しかもお互いが平等ではない。烏のような司祭服は、信仰心と資金、経営権をその内側にたくし込んでいるため、いつでもその裾は重く動く。彼らののろのろとした動きを見るたび、Wは今までそれなりにあったはずの信仰心がひび割れていくのをはっきりと感じていた。
『まあ、若気の至りでしょう』
『年齢の問題ではありません』
 皮肉の意味をしっかりと取り違え、Bは顔を上げた。
『彼の魂は迷っているのです。彼は私たちの兄弟だ、ただ単に血縁という意味ではなく』
 Wが深爪しすぎた中指を気にしていようともお構いなしで、恍惚と苦痛の入り交じった表情を浮かべる。
『彼や、苦しむ人々がここを訪れるのは、魂が知っているからなのですよ。此処こそ、傷を癒す場所なのだと』
 間違ってはいない。Wは微笑んだまま首を振っておいた。魂以外なら縫合が出来るはずだと、またもや浮かんだ軽口は、瞬き一つで流すことが出来る。


 確かに、運び込まれた女は素晴らしい存在なのだろう。今になって、興奮が湧き出る。
「『ボードウォークの天使』じゃ在り来たり過ぎる。『プリンセス・マイア』、いいでしょう」
 看護師に引っ立てられてきた片腕のないジャンキーに尋ねる。彼も、女の取り巻きの一人だったはずだ。
「さっきから気になってたんですけど、『マイア』ってどういう意味です」
「ギリシャ神話で狩人オリオンに追い回される美女ですよ」
 包帯を解きながら、Wは満足して言った。自ら縫い付けただけあって、傷口は化膿一つしていなかったし、縫い目も小さい。
「それと、MIA(戦闘中行方不明・戦死)扱いだから」
「なるほどねぇ」
 心底感心したように、男は頷いた。
「プリンセスってのはいい。彼女はそう呼ばれる価値がある」
「どうだか」
 全く気に入らないわけではない。ただ、変えられるものなら変えてみたい、それだけだった。
「実は訳ありの、とんでもない素性の持ち主かもしれない。誰も彼女のことを知らないから、崇められるんです」
 釈然としない顔の患者に、いつもどおりの朗らかな笑みを返すことで、一旦気持ちを遮断した。