~輪廻転生~
僕は死んだ。
いきなりの事で申し訳ないが事実だ。
ただ、僕は彼女を助けたかっただけだ。
交通事故ではない、病気でもない。
僕は・・・銃で撃たれて死んだ。
「死」というものは魂が抜けて無に帰ることだと思っていた。
だがその事実は違う。
では、何故撃たれたのか。
それは僕が高校に入って三ヶ月が経とうとしていた時であった。
僕は彼女に告白された。
同じ1-Dの佐々木尚美
ササキナオミ
に。
そのころの僕は、まだ恋について全然わからない男だった。
返事はまだ・・・ということにした。
ある日の放課後、女子のグループが最近の話題を話していた。
そのグループに佐々木さんがいる。
僕は自分のグループに混じりながら、女子の方に耳を傾けた。
「ねぇ知ってる?ここ周辺にこないだ銀行強盗した人が逃げてるって噂~。」
「え?それ本当?すごく怖ーい。」
「尚美とか美人だから狙われるんじゃない?」
尚美という言葉が出たとき、ついピクっと僕は動いてしまった。
確かに彼女は美人だがそこで狙うっていうのはおかしくないか?
普通はその狙うって言葉は性犯罪のことなんじゃないのか?
などと思いながら僕はひっそり聞いていた。
「でも、最近はいつ警察が来てもいいように銃持って歩いてるらしいよ~。」
「警察狙いなら一般人は大丈夫じゃない?」
女子の会話を見ていて、ふと思った。
尚美が会話に参加していないのだ。
いじめられているのだろうか、無視させられてる感じがする。
放課後、彼女を誘って聞いてみようと思った。
が、その選択肢が間違っていた。
この後僕は殺されるのである。
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ジリリと目覚ましがなる。
またあの夢、ここ最近同じ夢ばかりだ。
丁度この頃だっけ。”私”が死んだのは。
輪廻転生というのをご存知だろうか。
生前とまったく同じ人格、記憶で生まれることである。
つまり生まれ変わり。
加藤達哉
カトウタツヤ
という僕が死んで、今は加藤涼子
カトウリョウコ
として生きている。
加藤という名前はたまたま同じだ。
そんな偶然がありえるのだろうか。
ちなみに、住んでいる所も生前住んでいた所から近い。
私は神様の悪戯なんじゃないかと思っている。
もう、前の私が死んでから20年が経とうとしてるのに、
この街は何も変わらない。
ふとカレンダーを見た。
6月30日
もう6月も終わりである。
私はそっと溜め息を吐いた。
気分転換におもいっきり伸びをして時計を見る。
8時10分
私はこの体になって始めて遅刻することになった。
「お母ーさん、何で起こしてくれないのー?」
階段を下りてはそんな事を口にしてみる。
起こしてくれない母が悪いのよ。
「だって自分で起きるって言ったのはあんたじゃない?」
「だ、だからってここまで遅刻ぎりぎりまで寝かしとく!?」
「朝ごはん食べないで行ったら間に合うでしょ?」
「駄目な母演じてんじゃないわよ!」
結局、私は何も口につけず学校に向かうのだった。
ていうか朝飯ぐらい作っておいてくれてもよくない?
そんなこと思ってる暇ないんだった。
慌てて携帯のディスプレイを見る。
8時21分
全力ダッシュで学校に向かうのであった。
教室に着いたのは遅刻寸前の24分
家から近くてよかったと心から思った。
私は机に座ると乱れてる息で思い切りうつ伏せになった。
(生前はまだこんな時期に遅刻なんてしてなかったな・・・・)
そんなことを思いながらつい笑う
すると私の顔を覗き込んでくる人影が目の前に出現した。
そんなことお構いなく私はうつ伏せの状態を保つ
上からいきなり本で頭を叩かれた。
「いっ!つぅぅ~っ。何するんだよ!」
「へぇ・・・それが教師に対する態度かね?加藤さん?」
「つ、露草
ツユクサ
先生っ!?」
「HR始まってるから。あと、転校生紹介したいから状態起こせ。」
「転校生?」
こんな時期に珍しいな。
まだ三ヶ月ぐらいしか経ってないよ?
いじめでもあったんかねぇ・・。
いじめ
この言葉は毎回、佐々木を思い出す。
あの子はどうしているだろうか。
生きていれば36歳である。
結婚してるかなぁ、ちゃんと飯食ってるかなぁ。
そんなまるで母親みたいなことを思う。
教師のあいさつに混じって、教室の戸が開く。
そこには明らかに美男子って感じな男がいた。
転校生なんだよね。
少しかっこいいと思い見惚れてしまった。
何だろう・・誰かに似てる気がする。
そう思うと何だかソワソワした。
「転校生の佐々木水樹
ササキミズキ
です。・・どーも。」
ん?
なんか違和感
あの顔立ちどこかで・・・・・・・は!?
佐々木だ!ていうか、え?佐々木!?
ついビックリしすぎて椅子から転倒する。
周りにいた生徒もそれにビックリしてこちらを睨む。
やばっ、すごい恥ずかしい。
「はぁ・・・あの、佐々木君。席はさっき倒れた子の隣ね。」
「・・・・・はい。」
そういえば来たときから机一個増えてるなとは思ってたけどこういうことか。
これは転校生用の机か。
それにしても彼の顔、あいつに似てる。
どうみても佐々木の子供っぽい。
隣の席だからか、つい目があった。
優しそうな目をしているなぁ。
見つめすぎたのか、彼は頬を赤く染めていった。
熱でもあるのかなぁ、ちょっと危ないかな?
彼にいろいろ聞きたいことがある。
でも、今のこの歴史で私は何も口にできない。
なんせ加藤達哉という男はもう死んでるのだから。
私は何も彼女に言ってあげられなかった。
せめて、死ぬ前に「好き」と言ってあげたかった。
そう思った。
放課後
私は水樹に興味を持ったため帰りに誘ってみようと試みた。
クラスの女子や男子が彼の机を取り囲んでいて何やら色々聞いているみたいだった。
誘える雰囲気ではなさそうだな。
明日誘おうかなと思い、鞄を持って教室を出ようとしたとき、後ろから声を掛けられた。
「ねぇ、涼子は話聞いてみないの?」
「えー・・・んー、じゃあ一つ聞いてみようかな。」
少し、ほんの少しでいいから何か聞いてみることにした。
彼に近づいてみんなの輪に入った。
女子は何やら趣味とか好きなものとか聞いてるが
私はみんなとは正反対な事を聞いてみた。
「えっと、水樹君の母は何してる人なの?」
すると周りの空気が静まった。
え?私変なこと聞いたかな?
近くにいた女子達はありえないといった目でこちらを見てくる。
てか、普通は気になるでしょ?
そんなことを思いながら彼を見ていると、さっきまでの顔が少し暗くなった。
・・・もしかして地雷踏んだ?
彼は重たそうな口を開いて呟いた。
「人殺しの母の事なんか・・・誰が言えるか。」
周りのクラスメイトに聞こえないように呟いたらしいが、
私の耳には聞こえてしまった。
生前の頃から嫌なことは全て聞こえてしまうような体質だったから
この体に反映されているのだろう。
今、確かに「人殺し」って聞こえた。
彼女はまだあの頃の事を根に持っているのだろうか。
時間はとっくに5時を回っていた。
みんなは話し終えると教室から出て行った。