「哀の川」 第二十七話
話が煮え切らないまま、由佳を家まで送って行くことにした。母親が出かけるから早めに家に戻りたいと言っていたからである。気まずい空気が流れて由佳の家に着くまで殆ど喋らなかった。玄関を開けて母親の潤子に挨拶をして帰ろうとしたら、声を掛けられた。
「純一さん、良かったら由佳と家で遊んで行って下さい。早めに帰ってきますので、晩ご飯一緒に食べましょう。よろしいでしょう?お母様にもそう伝えておいて下さいね」そう言って、出かけた。断る理由も無かったから、由佳の家に上がらせてもらった。
何分ぐらい経っただろう。由佳とは何も喋ってはいない。うつむいたまま純一の顔を見ようともしない。純一は携帯から母親に由佳の家で晩ご飯をご馳走になると話した。パチンと携帯を閉じたとき、由佳は純一に抱きついた。ちょっと驚いたが、強く抱きしめた。
作品名:「哀の川」 第二十七話 作家名:てっしゅう