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最後の魔法使い 第一章 「南へ」

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アレンはまるでその手に持っていた煙草が何か触ってはいけないものであるかのように、ぱっと手を離して、煙草を落としてしまった。煙草は地面に着くと、じゅう、と音を立てて燃え尽きた。
火をつける、というのは、『火の魔法』では初歩中の初歩の技だ。学校に入りたてのアッパーの子供でも簡単にできる。反対に、どんなに優れたロウア―でも、ロウアーの持っている魔法では決してできないことだった。日々の生活で必要な火には、必ずマッチを使う。やり方を知らないのではなく、体の構造上、ロウアーはアッパーのように自在に火をつけたり消したりはできないのだ。
アレンはここ数日、自分がロウアーであると今まで以上に信じてきた。母をうそつきだと思いたくなかったが、それでも彼女の言うことは間違いだと思っていた。
なら、なぜ火をつけることができたのか?
どうあがいても、答えは一つしかなかった。ここ何日も実感がわかなかったことを、アレンはやっと現実のこととしてとらえた。同時に、今まで信じていたすべてのものが、ガラガラと音を立てて崩れていくのを感じた。

俺は、おとぎ話なんだ。

『魔法使い』なんだ…。

声も出ないアレンに、ディディーは今までよりずっとしっかりした声で言った。
「お前、魔法使いなんだな。」
アレンは答えなかったが、ディディーにはそれで十分だったのだろう。そうかそうか、と呟きながら、ディディーは立ち上がってマントをたたみ、それをそばに置いていた大きな荷物入れに押し込んだ。
「お前を学者さんの所に連れて行くよ。あの人なら安心だ。きっと力になってくれるぞ。」
辺りはもう真っ暗で、一人として通る者はいなかった。荷物入れを背中に担ぎ、行くぞ、とディディーが歩きだした。アレンはそのあとを、ふらふらと力なくついて行った。