アイラブ桐生・第三部 32~33
商店街の歩道には、たくさんの市民が集まり始めます。
打ち鳴らすエイサーの太鼓の音が、さらに市民たちを呼び集めました。
しいかし、指定された30分間は、あっというまに終了をしてしまいます。
右から左へ、左から右に、普段は張り合うエイサーたちが、
今日は仲良く入り乱れながらゲートの前を、
30分間にわたって乱舞をしました。
予定時間が過ぎてしまったために、路上にあふれたエイサーたちを
警察官が、歩道へあがれと指示をしはじめました。
しかしそれは、制限時間をすでに20分近くも過ぎてからのことです。
「あいつらも・・・・
那覇警察も、今日だけは俺たちの味方だ」
いつもの青年団員が、満足そうに汗をふいています。
顔見しりのエイサーたちも、お互いにねぎらいの
言葉などを交わしています。
道路封鎖が解除され、長く足止めをされていた車が
商店街へ流れ込んできました。
徐行運転をしている車から、
突如として激しいクラクションが鳴り響きます。
運転手が窓から身を乗り出すと、車の前方を指さしました。
・・・・車のアンテナ部分には、真っ赤なリボンが翻っていました!。
同じように、その後続の車にも真っ赤なリボンが翻っています。
歩道にあがったエイサーたちが、一斉に道路を注目をします。
通行が解除された商店街の道路には、赤いリボンやハンカチをなびかせた、
自動車の隊列が出来あがりました。
金網のあるゲート前には、赤い自転車に乗った青年が現れました。
その後ろを走る自転車の青年は、赤いシャツを身に着ています。
30分間以上にわたった青年団員たちのエイサーは、
商店街における、レッドカード作戦の幕開けを作りだしました。
青年団員たちには、まったくの予想外と言える嬉しい誤算です。
商店街のお店でも、
レッドカード作戦への模様替えがはじまりました。
花屋さんの店先では、店員さんが赤いエプロンに着替えています。
大きな窓ガラスに、赤いカーテンが広がりました。
歩道にあがったエイサーのなかから、
やがて太鼓の音が響き始めます。
小さく・・小さく・・・・
そしてすこしずつながら、力強く響き渡りはじめました。
しかもそれは、もう、誰にも止められません。
赤い目印を付けた自動車の隊列は、ひと時も途切れずに
商店街の車道を続きます。
「レッドカードだ。
一発退場のレッドカードの波が、次から次にやってくる」
「米軍に、命を返せと叫んでる。
子供の命を返せと、叫んで。
奪った命を返せと、みんなが声をあわせて叫んでいる」
優花が、感極まって、私の背中で泣きはじめてしまいます。
基地の金網と対峙をする長い道路に沿って、
赤い花が次から次にと咲きほこります。
帽子や胸に、全身に、そして足元にまで・・・・
ある人は、誇らしそうに赤いハンカチを振りながら、
ゲートの前を歩きます。
ハニカミながら、赤い帽子を振る人もいました。
ゲートの前を、次々に赤色を
身につけた市民たちが通過をしました。
人々による、「心の鎖」そのものが、
赤い色を通じて横に繋がりはじめました。
無言のレッドカードの意思表示が、
次から次にゲートの前を行き交います。
人の波も、車の流れも、ひとときも途絶えません。
宜野湾の市民たちが、基地に向かって、
ついに無言の抗議の声を上げ始めました。
宜野湾のまちが普天間に向かって、
怒りの声をあげています・・・・
子供の命を返せとスクラムを組んで、基地に向かって
抗議の声をあげ続けます。
行きかう人々が身に着けている赤い目印が、
涙でぼやけてにじんできました。
沖縄へ上陸して、これで二度目の涙です。
これが沖縄だ・・・感動と共に、こころの奥にしっかりと刻みついて、
私にとって、終生わすれられない光景のひとつになりました。
作品名:アイラブ桐生・第三部 32~33 作家名:落合順平