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アイラブ桐生・第三部 32~33

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 基地反対闘争がもたらした沖縄での人間の鎖は、
80年代から90年代にかけて、基地を包囲するという形で大規模に
何回も取り組まれるようなります。
本文中に出てくるものは、そのはるか以前の自然発生的なものです。

 「コザ暴動」事件からは、まだ半年あまりです。
基地の警備はいっそう強化をされて、米兵の夜間外出許可は
まだ時間制限つきのままです。
基地周辺の警戒と警備ぶりには、きわめて厳しいものがあります。
当然の結果として、デモ行為のひとつとしてゲート前で手をつなぐ
「人間の鎖」には、警察の道路使用許可は出ません。

 米軍も警察も、さらに琉球政府も、これ以上の摩擦を生む
余計な騒動は歓迎をしていないのです。


 基地の包囲作戦が、中途で挫折してしまいました。
優花が今日はかなり濃い目のアルコール入りのコーラを呑んでいます。
いつもの青年団員は、見るからに意気消沈をしています。
警察の道路使用許可が取れなければ、集会は
ただの暴動になってしまいます。
あれほど熱を帯びていた作戦会議も、ついに沈黙をしてしまいました。



 「レッドカードを米軍に出す前に
 こちらのほうが、白旗をあげるようだ・・・・」


 「ば~か言うな、
 白旗を見せたら降参したことになる。
 簡単にあきらめてたまるもんか、たたかいは、これからさ」



 「そうは言っても、許可なしではなぁ・・・・
 例のあの事件(コザ事件)以来、警察も許可には慎重だし、
 来年の本土復帰を無事に迎えるためにも、
 あたらしい火種は作りたくないと考えているようだ」


 「でも本土に復帰を果たしても、
 米軍基地は今まで通りに残されたままだし、
 毒ガスはどこかに隠されたみたいだけど、
 まだ沖縄のどこかに有るというし。
 それに、核兵器もどこかに有るんでしょ」


 「優花、お前、子供のくせにやけにくわしいな。
 身体は子供でも、みかけによらず、頭だけは大人だな」



 「褒めてるの、それ?
 もう、こうなったらあたしがこの恰好のまま、エイサーになって、
 基地のゲートに突っ込んでやろうかな。
 米軍のお前らは全員、レッドカードだぞ~って」


 青年団員の目が、優花の服装にぴたりととまりました。
たしかに今日の優花は、上から下まで全身真っ赤な洋服で決めています。




 「そうか、その手がある。エイサーだ。
 なるほど、使えそうだ」


 いきなり立ち上がった青年団員が、優花の両肩に手を置きました。



 「優花。
 お前は、俺たちの女神だ!
 エイサーとは気がつかなかった。
 お前は救世主だ、沖縄のジャンヌダルクだぞ。
 優花は、やっぱりいい女だ。
 そうと決まったら早速、仲間に打診をするぞ。
 おい、群馬いけそうだ。
 予定通りに実行をするぞ。」


 優花の目の前に置かれていた濃い目のコーラを一気に呑みほします。
あわただしく席を立ち、ドアを開けると表通りに勢いよく
青年団員が、飛び出して行ってしまいました。


 「で、、 何の話?
 誰なの?ジャンヌダルクって・・・
 そんでもって、で、やるわけ、人間の鎖は・・・・」


 優花にも私にも、まったく事情はわかりません。
しかし、青年団員は突然なにか、人間の鎖の秘策を思いついたようです。
あとは、あの青年団員の奮闘次第でした。