愛憎渦巻く世界にて
「父ちゃん!!! 船と船が戦ってるよ!!!」
タカミ帝国沖の海原に浮かぶ小舟で、5歳ぐらいの男の子が、目の前で釣りをしている自分の父親に言った。
男の子は単眼鏡で、シャルルたちの船とクルップの船との争いを見つけたのだった。砲声がときどき響いてくるので、ちょうど暇を持て余していた男の子は、置いてあった単眼鏡を使ったのだった。
「ほっとけほっとけ。ゴーリ人とムチュー人が争っているだけさ。オレたちの国の旗は無いだろ?」
ただ、父親は釣りに夢中で、砲声や男の子の発見などどうでもいい様子だった……。すぐ後ろの入れ物には、釣ったばかりの数匹の魚が入っていた。
「片方の船のは見えないけど、もう片方の船には、ボクだちの国の旗がかかってるよ!!! あっ、沈んでく!!!」
単眼鏡で見ている男の子のセリフに、父親は驚いた様子で、
「なに!? 貸せ!!!」
男の子から無理やり単眼鏡を奪い取った。そして、急いで2隻の船を見る。男の子は、無理やり単眼鏡を奪い取られたので、不満をあらわにしていた。
「なんてことだ」
父親は、自分たちのタカミ帝国の国旗をつけたシャルルたちの船が転覆していくのを見届けながら呟いた。そして、
「すぐに戻るぞ」
単眼鏡を置いてそう言うと、急いでオールをこぎ始めた。男の子も、大変なことだということは理解できているようで、もう1組のオールをこぎ始めたのだった。
親子が小舟を岸へと向かわせていると、爆発音が鳴り響いてきた……。