愛憎渦巻く世界にて
「その馬車を止めろーーー!!!」
そのとき、追っ手が道路の向こうからやって来てしまった……。
「え?」
何がなんだかわからないという様子の指揮官がゲルマニアの顔を見る。そのとき、馬車の中にいるマリアンヌを見つけてしまった……。
「なんであの女がいるんですか!?」
指揮官は、これ以上ないほどに驚いていた。
「駄目だ!!! 逃げるぞ!!!」
ゲルマニアはそう叫ぶと、馬車を急発進させた。指揮官は唖然とした様子で、ゲルマニアが運転する馬車を見届けた。そんな彼の横を、追っ手の騎兵たちが猛スピードで通り過ぎていく。
「おい!!! いっしょに追いかけるぞ!!!」
その騎兵たちといっしょにいたクルップが、指揮官や他の騎士たちに言った。指揮官や他の騎士たちは、まだわけがわからない様子だったが、とりあえずクルップといっしょに馬車を追いかけることにした。
「ゲルマニア! どこに向かっているんだ!?」
シャルルが馬車のドアを開けて、ゲルマニアに言った。
「おそらく、大きな門はもう封鎖されているだろう。だから、小さい門から外に出る!」
「当てはあるのか?」
「外壁のすぐ外にある農場へとつながっている門がある。馬車1台が通れるぐらいの小さい門で、普段兵士はいない」
「そうか」
「それより、追っ手をなんとかしてくれないか? できれば、殺さないように頼む」
「私とメアリーでなんとかしよう」
これはシャルルの後ろにいるウィリアムだ。既に長弓を装備している。その反対側の開いたドアからは、短筒を構えたメアリーが身を外に出していた。
それからすぐに、馬車から後ろにいる追っ手に向かって、矢と銃弾が次々に放たれた。それらは全て追っ手が乗っている馬に命中し、追っ手は次々に落馬していった。
しかし、次々に追っ手が現れ、キリがなかった。しかも、クルップたち王室騎士団も追っ手に加わり、ウィリアムの矢とメアリーの銃弾を弾き返すか避けだした。彼らは、そのへんの騎兵とは違い、多くの戦を生き残った騎士なのだ。
「さすがゲルマニア姫の子分たちだな!」
ウィリアムはゲルマニアに皮肉を言った。しかし、ゲルマニアは、
「私が鍛え上げたのだから当たり前だ! おまえも鍛え上げてやろうか!?」
自慢気にそう言った……。
「弱点は無いの!?」
メアリーがイライラした様子で言う。
「よほどの不測な事態が起きることを願うしかないな」
ゲルマニアはそう言っていたが、彼女は余裕気な表情をしていた。
「アンタの部下でしょ!? やめるように命令できないの!?」
「従うかもしれないが、国王からの命令違反として、彼らの身が危なくなる。それより、門に着いたぞ」
狭くなった道路の先に小さな門が見えてきた。ゲルマニアが言ったように、見張りの兵士はいないようだった。門は、外側の農場のために開いたままで、このまま門をくぐり抜けられそうだ。
シャルルはマリアンヌに「もう大丈夫ですよ」と安心させていた。