愛憎渦巻く世界にて
「姫!!! 何をしておられるのですか!?」
そのとき、そこにクルップが、ハンカチで手をふきながらやって来た……。どうやら、トイレに行っていたようだ……。
「マリアンヌと彼女の横にいる男を解放してもらおうと思ってな」
ゲルマニアは、剣の刃を兄の首に当てながら言った。
「仮に解放してもらったとしても、その後、姫はどうします!? 間違いなく、その兄上に殺されますよ!!!」
クルップは叫ぶ。
国王は、クルップがゲルマニアを説得してくれると期待し、黙っていることにした。しかし、国王は、ふと横を見た瞬間、思わず驚いた顔になった……。
「どけーーー!!!」
ウィリアムが、馬車をシャルルとマリアンヌに向かって走らせており、彼らを取り囲む兵士をどかした……。避けられなかった何人かの兵士は、馬車に轢き殺されたり、跳ね殺されたりして死んだ……。
どうやら、ウィリアムとメアリーは、この2件の騒動にまぎれて、来賓席から抜け出し、大使館の馬車を勝手に使い出したらしい……。
「ほら、早く乗ってください!!!」
馬車は、シャルルとマリアンヌのすぐ近くで止まり、馬車の開いたドアから、メアリーが叫ぶ。
「ありがと!!!」
シャルルは斧を捨て、マリアンヌを連れて、馬車に急いで乗りこんだ。
「その馬車を止めよ!!!」
王がそう命令すると、兵士たちが馬車を止めようと、馬車に近づく。ウィリアムが運転する馬車は、大使館の外交ナンバーの馬車なので、攻撃したり、乗っている人を引きずり出したりしてはいけないのだった……。そこで、馬車が動けないようにするつもりなのだ……。
バァァァン!!!
メアリーが、一番近くにまで接近していた兵士を短筒で撃ち殺す……。銃声を初めて聞いた多くの観衆は悲鳴をあげ、兵士たちは震え上がっていた……。
「えい!!!」
そのとき、ゲルマニアが兄を近くにいた近衛兵に向かって強く押した。彼女の兄は、近衛兵とともに倒れた。そして、ゲルマニアは、少し高くなっている王室専用席から広場の地面に降り立った。
「ゲルマニア!!! 何をしておる!!!」
国王がそう叫ぶと、ゲルマニアは振り返り、
「私なりのやり方で、この戦争を終わらせます!!!」
そう叫び返すと、シャルルたちの馬車に向かって突っ走る。
「どけえ!!!」
ゲルマニアが、ビビリながら馬車を取り囲んでいる兵士たちを押しのけた。そのときの表情は、恐怖心を感じさせるほどの真剣なものだった……。
「くっ!」
メアリーが、短筒をゲルマニアに向けて撃ったが、放たれた銃弾は、ゲルマニアの顔スレスレを飛んでいき、彼女の真後ろにいた兵士の額に命中した……。
ゲルマニアは、恐れることなくそのまま突っ走り、無理やり馬車に乗りこみ、ドアを急いで閉める。それからすぐに、メアリーを押し倒し、短筒を握る彼女の手をつかみ、短筒を使えないようにした。
「安心しろ! 私は、貴様らの仲間になる!」
ゲルマニアは、ウィリアムにも聞こえる声でメアリーにそう言った。だが、
「離せ!!!」
メアリーは、ゲルマニアを睨みつけながら、合いているほうの手で隠しナイフを抜いた……。そして、そのナイフの刃をゲルマニアの首に向け、手を素早く動かした……。