愛憎渦巻く世界にて
「ウィリアム、止める手立てはもうないのか?」
シャルルが狼狽えながら言う。
「うーむ」
ウィリアムが顎に手をやって考え始めた。少しキザな感じだ。
「明日、この戦争が終わるのですから、もう何もしなくていいんじゃないですか!?」
メアリーが思い切った口調でそう言った。
「なんだと!!!」
シャルルがメアリーにつかみかかろうとした……。ウィリアムがシャルルを押さえようとしたが、間に合わなかった。シャルルは、メアリーの目の前まで来た……。
ガン!!!
その音とともに、シャルルはテーブルの上にブッ飛ばされた……。テーブルの上の紅茶やクッキーが、テーブルから落ちる。ブッ飛ばされたシャルルは、テーブルの上で仰向けに倒れていた。そして、イーデンは、呆然とした顔つきで、メアリーを見ていた。
シャルルをブッ飛ばしたのはメアリーで、彼女が繰り出したのは強烈なキックだ……。
「!?」
シャルルは痛みよりも、何が起きたのかを把握できずに焦っていた……。
ガチャ
仰向けになったシャルルの額に、メアリーが短筒を突きつけていた……。
「あなたの勝手な行動で、どれほどの人が迷惑していると思うのよ!!!」
彼女は鬼のように怒っていた……。彼は、彼女がこれほど怒るのを初めて見たので、額に突きつけられた短筒よりも、彼女のほうを怖がっていた。しかし、
「ぼくは、ムチュー王国の国民として、姫を助けようと!!!」
シャルルも強気の口調で言い返した。
「あなたはそうかもしれないけど、私とウィリアム様はタカミ帝国の人間よ!!!」
「あんたたちが、この戦争を止めようとしているっていうから、協力し合っているんじゃないか!!!」
「そうね!!! それじゃあ、明日までここにいましょうね!!!」
「嫌だ!!!」
彼はそう言い切ると立ち上がり、応接室から出ていこうとした。
「止まりなさい!!! 撃つわよ!!!」
彼女はシャルルの背中に銃口を向けた。しかし、シャルルの足は止まらない。
メアリーは、短筒の引き金を引こうとする……。
「メアリー、行かせてやれ!!!」
そのとき、ウィリアムが大声で言った。メアリーはハッとして、
「しかし、この馬鹿を放っておけば、大変なことに!!!」
「いいから行かせてやれ!!!」
ウィリアムがまた大声で言うと、メアリーは渋々、短筒をホルスターに収めた。
「ありがとう」
シャルルはドアの取っ手を握りながら振り向き、ウィリアムに礼を言った。
「そのかわり、私たちと君はもう無関係だからな」
ウィリアムが静かにそう言った。
「……わかった」
シャルルはそう言うと、ドアを開け、応接室から出ていった。廊下から聞こえてくる彼の足音は、しだいに小さくなり、やがて全く聞こえなかった。