愛憎渦巻く世界にて
シャルルたちの馬車は、ゲルマニアたちにすぐに追いつかれた。シャルルのすぐ横を、ゲルマニアが併走する。
「おまえら、マリアンヌ姫を取り戻しにきたのか?」
「そうだ!」
「…………」
ゲルマニアは何かを考えた。そこへ、ウィリアムがシャルルの横から顔を出した……。
「ゲルマニアさん。見逃してくれませんか?」
ゲルマニアはウィリアムの顔を見た途端、舌打ちした。街中で会いたくない奴に会ってしまったという表情だ……。
「おまえは、何をやっているんだ?」
「この戦争をやめさせようとしているのですよ」
「明朝、あの姫は処刑される。それでこの戦争は終わる」
「あんたたちゴーリ王国の勝利でな!」
シャルルが叫ぶ。
「そんな終わらせかたでいいと君は思っているのか?」
ウィリアムがゲルマニアに尋ねる。
「黙れ!!! とにかく止まるんだ!!!」
ゲルマニアが叫んだ。
「あっ!!! ゲルマニアさん、スカートのチャックが開いてますよ!!!」
ウィリアムが叫んだ……。
「な…なに!!!」
ゲルマニアが顔を赤くした。その途端、ゲルマニアの馬のスピードが落ち、クルップたち他の騎士の馬のスピードも落ちた……。
「あっ、今、鎧を着ているんだった」
ゲルマニアはすぐそれに気づいたが、馬車に遅れを取ってしまった……。
「ゲルマニアさん、スカートのチャックは私が閉めます!!! さあ!!!」
クルップは期待がこもった口調でそう申し出た……。
「鎧を着ているだろうが!!!」
ゲルマニアはクルップの顔面をぶん殴った……。殴られたクルップは落馬した……。鎧と石畳とがぶつかり合い、うるさい金属音が鳴り響く。
「うまくいったな」
ウィリアムは得意気にそう言った……。もちろん、ドヤ顔でだ。
「止まれーーーーーーー!!!」
烈火のごとく怒っているゲルマニアが追いついてきた……。他の騎士団のメンバーは、彼女に大きく引き離されていた。
「今度は話も無理そうですよ」
メアリーがため息混じりに言う。
「どこかに隠れる場所はないのか?」
メアリーとシャルルの呟きを聞くまでもなく考えていたウィリアムは、何かを思いついた様子でポケットから地図を取り出し、
「シャルル、今から私が道案内をするから、その通りに運転しろ」
地図を見ながらそう言った。