愛憎渦巻く世界にて
ヒュン!
ウィリアムが素早く放った矢は、次の矢をセットしていた山賊の額を直撃した。その山賊は、額から血を噴き出させながら、仰向けに倒れた。
残る2人の山賊は、一瞬少しひるんだが、すぐに突進を再開する。
バァァァン!!!
耳をつんざくような音がした。メアリーはいつの間にか、武器を装備していた。彼女の武器は、ホイールロック式の短筒だった……。着火のための縄紐の先が燃えている。
弾丸を喰らった山賊の1人が、胸を押さえながらうつ伏せで倒れ、すぐに微動だにしなくなった……。心臓を撃ち抜かれたようだ。
シャルルとマリアンヌは、初めて聞く銃声に驚いていた。シャルルは、覆い被さるようにマリアンヌを守っていた。
「降参だ!!!」
最後の1人となった山賊は、間抜けな声を上げながら、必死に逃げ出した。それを難なく、ウィリアムが次の矢で射殺した……。
その場は静かになり、血と火薬の匂いがする……。
「姫、大丈夫ですか?」
シャルルが、起き上がらせながら言った。
「ええ、大丈夫です」
マリアンヌは服についた土を払いのけながら言う。
「メアリー、馬車を運転してくれ」
ウィリアムが、馬面の死体をどけて、馬車の中に座る。
「はい」
メアリーはそう言うと、短筒を服の中にしまった。服の中には、短筒用のホルスターが吊り下げられている。彼女は馬車の運転席に座ると、立ち話しているシャルルとマリアンヌを脇目に、馬車を発車させた……。
「おい!!!」
シャルルはすぐ馬車に飛び乗り、マリアンヌに手を伸ばす。彼女は彼の手を急いでつかみ、馬車に引っ張り上げてもらう。
馬車は、目的地であるチェンバレンへ向かう。夜闇は、東から昇ろうとしている太陽の光により、だんだん弱くなっていく。
今まで地下で幽閉されていたマリアンヌは、久々に夜明けを眺めることができて、感慨深げだった……。