愛憎渦巻く世界にて
「私はこの戦争を止めにきました」
「止める? 我が国が勝つまでこの戦争は終わらないぞ? ……まさか貴様、我が国を降伏させたいたいのではないだろうな?」
すごむ国王。
「降伏ではありません! 双方話し合いの上、この戦争を終えるのです!」
しかし、ゲルマニアは負けない。
「話し合い? この私に、ムチュー人やタカミ人と話せというのか?」
「ええ、そうです」
「……フーン、貴様も偉くなったものだな。私に命令するとは」
「命令ではありません! これはお願いです!」
ゲルマニアがそこまで話した時、謁見室のドアが勢いよく開き、20人ほどの兵士たちが中になだれこんできた。彼らは、シャルルたちはもちろん、ゲルマニアを取り囲んだ。
「ゲルマニア様! 武器を床に置いてください!」
兵士が言った。
大臣の誰かがこっそり兵士を呼んだのか、ドア前の兵士が呼んだのだろう。兵士たちは剣や槍を、シャルルたちに向ける。
「さて、お前たちをどうしてくれよう? そこにある小道具で痛めつけた上、処刑するのも構わないぞ?」
国王がアゴで示した先には、拷問器具が並んでいた。血が乾いていないところを見ると、まだ使われたばかりだとわかった……。
「言っておくが、私は娘であるお前にも容赦しないぞ?」
ゴーリ国王は、この謁見室で拷問器具を使い、反抗的な大臣や兵士や人々を次々に痛めつけていた……。罪状は「反逆罪」だ。
きっかけは、ムチュー王国首都攻略失敗を機に、大臣の一人がゴーリ国王に停戦交渉の進言をした事だった。言葉足らずだったのか、普段から気に入らない大臣だったのかはわからないが、その大臣は拷問の上、処刑された。
国王は、首都攻略失敗と王子戦死とタカミ軍襲撃のビッグニュースを聞き、頭が参ってしまったのだ。それは疑心暗鬼を招き、持ち前の頑固や傲慢と相まり、彼は恐ろしい暴君と化した……。
ゲルマニアはそんな事情がわかり、心の中で涙を流す。そのため、父をなんとか抑えなければいけないと誓った。
「兵士諸君、武器を下ろせ! ゴーリ王国次期国王として命じる!」
ゲルマニアはひるむことなく、そう叫んでみせた。ここで弱みを見せてはならないのだ。
【 つづく 】