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愛憎渦巻く世界にて

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{まずいな……}
ゲルマニアは、兄君による剣の攻撃を軽々と避けていたものの、壁際まで追いやられてしまった。
「よし、そろそろ決められそうだな!」
息切れをしているが、まだ戦えそうな兄君。このままでは避けきれずに、剣の餌食となってしまう……。
「これで終わりにしてやる!!!」
力をこめて、剣を振り上げる兄君。

   ガシャン!!

「うわっ!」
天井から吊り下げらているランプに、兄君の剣が当たってしまった……。ランプは壊れ、中の油が彼の頭に降りかかる。さらに、ランプの火種が落ちてきて、
「うわうわうわ〜〜〜!!!」
油に引火する形で、兄君の頭が威勢よく燃え始めた……。剣を放り捨て、無様に慌てふためく。突然の出来事に、ゲルマニアは唖然としている。
「だ、誰か、火を消してくれ〜!!! 熱い熱い〜!!!」
兄君は、間抜けな声をあげながら、寝室から飛び出していった。
「……まったく。手間をかけさせるなよ」
そうつぶやくゲルマニア。それから、ベッドに突き刺さった剣を引き抜き、ベッドの下にいる副官の死を確かめる。
 そして、兄君を追いかけていった。出入口のドアが開け放たれていたことから、彼がテントの外へ逃げたことがわかった。


「熱い〜!!! 熱い〜!!! 早く水をかけてくれ〜!!!」
テントから飛び出した兄君は、陣地内を元気よく駆け回っていた……。逃げようとしているゴーリ兵の何人かが、頭を燃やしている彼の姿を見つけたが、苦笑いを浮かべただけだった。彼への忠誠心など、一片も無いのだ。
「み、水はどこだ〜!? どこにある!?」
もはや、自分でなんとかするしかないことに気づいた彼は、水の置き場所を探す。陣地内に、水の入ったタルがまとめて置かれていたことを、彼は思い出せたのだ。
「あっ、あそこだ!!! 熱い熱い〜〜〜!!!」
火事場の馬鹿力的なおかげなのか、彼はその場所をすぐに見つけることができた。放置された水入りタルの元へ、大急ぎで向かう兄君。

「ぐわっ!」
ところが、あと10歩ほどのところで何かに踏みつけ、勢いよく転んでしまう……。なんとそれは、ハエの舞う馬糞だった……。
「痛い痛い〜!!! 熱い熱い〜!!!」
変な転び方をしてしまったらしく、彼は足をくじいていた……。そのため、彼は立ち上がることができなかった。
「熱い! 痛い! 熱いし痛い。熱いよ。助けて。痛い熱い……」
声を次第に弱らせながら、その場でのたうち回る兄君。火の熱さと足の痛みが、無邪気に競争している感じの苦しみを、彼は満喫しているのだろう……。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん