愛憎渦巻く世界にて
「あの、どうですか?」
マリアンヌがシャルルに言う。2人はまだ武器庫におり、シャルルは、ノコギリで鎖を切断するために頑張っていた。
「削れてるのは確かだけど、時間がかかりそうです」
シャルルは汗を拭いながら言った。鎖の削れた部分から出た鉄粉が、シャルルの足元の床に落ちていた。しかし、その鉄粉の量を見れば、あまり削れていないのがわかる。思ったよりも頑丈な鎖のようだ。
「武器庫はこちらです」
「わかった」
そのとき、シャルルが開けようとしているドアの向こうから、声とともに、足音が聞こえてきた。すぐにシャルルは、さっとノコギリを引き抜いた。声の主の一人はウィリアムで、シャルルはすぐにそれを理解した。マリアンヌも「どこかで聞いたような」という風に頭をひねっていた。彼女もウィリアムと面識があるのだから、覚えがあるのは当然だろう。
「今、開けます」
ウィリアム以外の者の声とともに、鍵と鎖がガチャガチャ鳴り出した。
「どこかに隠れて」
シャルルはノコギリをその場に置き、マリアンヌに隠れるように言った。ウィリアム(あと、メアリーも)だけなら良いのだが、他にも人間がいるらしいので、2人は隠れることにした。
しかし、2人が隠れ場所を見つけるよりも前にドアが開き、先頭にいたウィリアムに思いっきり見られた……。アニメなどでは、ギリギリでうまく隠れることができるというのが定番だが、現実は厳しいのだ……。ウィリアムとメアリーは目を丸くして、ウィリアムとマリアンヌを見ていた。
「……ここで何をしているのだ?」
「その女の子とよろしくやってたの?」
ウィリアムとメアリーがそう言うと、
「あら、ウィリアム様ですわ」
シャルルの後ろで、マリアンヌが言う。
「『ウィリアム様』?」
シャルルが振り向いてマリアンヌを見る。
「マリアンヌ様だ!!!」
ウィリアムの後ろにいた男たちが言う。男たちは近衛兵たちだった。すると彼らは、マリアンヌを捕まえようと、ウィリアムとメアリーを押しのけようとした。しかし、
「ちょっと姫とお話がしたいので、四人だけにしてもらえませんか?」
ウィリアムが近衛兵たちを押し止めながら言った。どうやら、ウィリアムは、即座にシャルルとマリアンヌの状況を把握したようだ。
「え?」
押し止められた近衛兵たちが、呆気に取られたという感じで、ウィリアムを見る。
「個人的なお話です。まさか、いっしょに聞きたいというのですか?」
ウィリアムが少し脅すような口調でそう言うと、近衛兵たちは首を横に振る……。
「それでは」
ウィリアムがそう言うと、横にいたメアリーが、ドアを静かに閉めた……。近衛兵は、ドアの前で突っ立っているしかなかった……。