愛憎渦巻く世界にて
「……それで、姫はなぜここに?」
シャルルは、話題を変えようとそう尋ねた。姫が地下室で幽閉されているということを知っているのは、王室と一部の家来だけだった。
「戦争が終わるまで、ここに隠れているように言われているのです」
マリアンヌは元気よく答えたつもりだが、シャルルには、マリアンヌがここから出たがっているのを感じた。シャルルは、地下室を見回した。彼は、こんなところに一人で居続けるなんて、誰でも嫌だなと感じた。
そこで、シャルルは何かを決心した思いで、
「姫、私とここから出ようとは思いませんか?」
マリアンヌにはっきりとそう言った……。シャルルが真剣な様子でそう言ってきたので、マリアンヌは夢を見ているのかと思った。
「……しかし、あなたに御迷惑がかかります」
マリアンヌは心配して言った。だが、シャルルは、
「大丈夫ですよ! 姫に命令されたってことにすれば!」
そう自信満々に言った……。
「なるほど、それならいいでしょう」
マリアンヌが怒られる結果になるのだが、天然ボケ気味の彼女は納得してしまった……。
「それじゃあ、ここから出ましょうか」
マリアンヌが気づく前に、シャルルが促した……。
「えっと、どうやって?」
マリアンヌは、展開の早さについていけないという感じで、シャルルに尋ねた。彼は、地下室をぐるりと見回してから、マリアンヌに耳打ちした。彼女は聞き終わると、「え〜」という顔をした……。
「姫様、お食事はお済みですか?」
先ほどのメイドがディナーの片付けに地下室に来た。地下室に来たのは、そのメイド1人だけだ。
マリアンヌは、地下室の真ん中に立ち、メイドに背中を見せて黙ったままだった。マリアンヌは冷や汗を滴らしており、おかしいと感じたメイドが、心配そうにマリアンヌの元に近づいてきた。
ガチャ!!!
次の瞬間、メイドはシャルルに、何枚も重ねた皿で後ろから殴られた……。その途端、メイドは気を失い、地下室の床にうつ伏せで倒れた……。
マリアンヌはすまなそうな感じで、気絶したメイドを見ていたが、シャルルが手招きしたので、彼の元に駆け寄った。
シャルルは重ねた皿をカートの上に置くと、そのカートを押しながら地下室を出た。マリアンヌも不安そうに地下室を出た。(打ちどころが悪かったらしく、そのメイドは下半身不随となった……。)