愛憎渦巻く世界にて
彼女は、周囲に人の姿が無いことを確認した後、木箱から外に出た。深呼吸した後、厨房の掲示を見る。甲板に上がるのではなく、ここで船のことがなにかわかるかもしれないと思ったからだ。
ガキッ!
そのとき、厨房のどこかからか音がした……。彼女は一瞬だけビクっとしただけだったが、その音がした場所が、目の前にある壁の中からだとわかると、本能的に後ろに1歩下がった。
「え? なに?」
彼女はただそう呟くしかなかった。今すぐ逃げ出したかったが、船員に見つかる危険性から足が動かなかった……。
ガキンッ!!!
金属が弾ける音ともに、目の前にある壁が上へ跳ね上がった……。金属製の錠前が、厨房の床を転がる。どうやら、その壁は跳ね上げ式のドアになっていたようだ。
その風変わりなドアが開くと同時に、ドアの向こうから6人の少年少女が、厨房に勢いよく倒れこんできた……。
説明する必要も無いと思うが、この6人の少年少女とは、シャルルたちのことである。シャルルたちは、幽霊を見るかのような目つきでブリタニアを見ていた……。ブリタニアのほうはというと、突然のシャルルたちの登場に、ただ呆然と驚くばかりであった……。偶然にも、シャルルたちと同じ船に乗り込むことに成功したということを、彼女は信じられないようだ。
「ブリタニア! なぜ、ここにいる!?」
一番先に落ちつきを取り戻したウィリアムが、ブリタニアを問いただす。
「お兄様たちこそ、なんでそんなところに隠れているのよ!」
「…………」
ブリタニアの質問返しに、返答できないウィリアム。仕方がないことだが、他のシャルルたちも返答できないようだ。船長の許可を取っているとはいえ、彼女と同じく危ない橋を渡っている点は同じだからだ……。
ブリタニアは、シャルルたちが返答に困る様子を見て、すぐに察知したようで、
「これからよろしくお願いするわ!」
子供特有の生意気な口調で言った……。
シャルルたちに、また新たな仲間が加わった瞬間であった……。