愛憎渦巻く世界にて
「実は、運良く我が国に泳ぎついた者が数人おりまして、その者たちからの証言によれば、我が国の民が、船長とその助手として乗っていたということです!!!」
それを聞いた途端、皇帝は目を細めた。自国の船が撃沈されたことに対して、怒り始めていることは明らかで、少なくとも遺憾の意を表明するだけで終わらせることは無さそうだ……。
「なるほど。それで撃沈させたほうの船はどうした? まさか、そのままにしておいてやっているのか?」
殺気がこめられている口調だった……。
「実はですね、皇帝。その敵船も沈みました。原因はわかりませんが、船で爆発が起きたようです」
「同士うちというわけか。その2人の同胞はどのような人物だったのだ?」
敵船も沈んだことに対し、皇帝の怒りのバローメーターは一時停止することとなった。
「……それがですね……」
将軍は言いづらそうにしていた……。2人のタカミ人が誰と誰であるかを考えれば、当然のことだといえる。
「どうした? 生死に関らず、褒美を与えなくてはならないのだから申せ」
皇帝に促され、将軍はゆっくりとした口調で、
「どうやら、2人の同胞とは、皇帝陛下の御子息であるウィリアム様とメイドのメアリーのようです」
そう言ったのだった……。
この言葉の後、ダイニングルームが騒然となったのは言うまでもなかった……。ウィリアムの父親である皇帝は、すぐに会議を開けと命令し、緊急の会議のために、ダイニングルームから執事とともに出ていった。母親である皇妃は、ウィリアムの無事を必死に祈っていた。
だが、マリアンヌだけは平然としていた。兄であるウィリアムとメイドであるメアリーのことを両親よりもよく知っているという自信があるからで、あの2人が簡単に死ぬはずが無いという確信があったからだ。
「お母様、私は部屋に戻りますわ。食事をする気分ではありませんので」
ブリタニアは、わざとらしいほど丁寧な口調でそう言うと、ダイニングルームから出ていく。
ブリタニアは、わざと遠回りして、私室へと歩いている。彼女の後ろについている専属メイドは、遠回りに気づいていたが、ブリタニアが動揺しているからだと勝手に思っており、黙っていることにした。
しかし、ブリタニアが、「たまたま」通りかかった会議室を、少しだけ開いたドアのすきまからのぞき始めると、黙っていなかった……。
「ブリタニア様! のぞいてはなりません!」
小声の強い口調で、ブリタニアをしかる。しかし、ブリタニアは構うことなくのぞき続けていた。
会議室には、皇帝と将軍だけでなく、多くの軍人や大臣がいた。執事は、ブリタニアがのぞいているドアの近くに立っていたが、ブリタニアがのぞいていることには気がついていないようだ。ブリタニアも、のぞきに夢中なので、執事がすぐ近くにいるということに気がついていなかった。
「早くお部屋に戻りましょう!」
「静かに!」
ブリタニアは威嚇すると、聞き耳のレベルを最高に上げた。皇帝たちの会話が、彼女の耳に飛びこんでくる。