アイラブ桐生・第三部 30~31
赤い車体が、植え込みと店舗の間の歩道の上を、
さらに狂って突き進みます。
歩道に置かれた看板が砕け飛んで、
店の前に飾られた商品が派手になぎ倒されます。
車体はすでに、完全にコントロールを失っていました。
『子供たちが、居る!』優花が叫びます。
その前方には、さきほどまでボールで遊んでいた
サッカー少年たちが居ました。
ブレーキのゴムが激しく焦げるにおいが一帯に立ち込めました。
外れたタイヤが勢いよくはじめて、
店舗のショ―ウィンドウを木端微塵に砕きます。
子供たちの悲鳴と、それに続く大人の怒号が聞こえてきます・・・・
すべてが、一瞬の出来事でした。
暴走事故を起こしたのは 米軍専用の黄色のナンバープレートです。
物音と悲鳴をききつけた買い物客たちが、
一斉に歩道へ飛び出してきました。
赤い車を追いかけていたと思われるHPのジープが、急旋回をして
こちらに向かって突進をしてきます。
「子供のたちの救助がさきだ!」
誰かが大きな声で叫んでいます。
子供たちが、この暴走運転に巻き込まれてしまいました
大通りのはるか先からも、もう一台のMPのジープが
疾走してくるのが見えます。
さらにもう一台が反対側の街角から、現れました。
事故現場に降り立ったMPが、銃を片手に野次馬たちをかきわけます。
白煙を上げるスポーツカーから、
運転手をひきずりだそうとしています。
さらに駆けつけたジープから、応援のMPが密集の中へ飛び込みます。
「子供たちの救助が先だろう!」
誰かがまた、大きな声で叫びました。
傷ついている運転手を無理やりに引っぱりだしたMPは、
ジープの後部座席へ放り込むように押しこむと、あっというまに
急発進をしてしまいます。
「子供たちはどうした!」
「早く、救急車をよべ!」
作品名:アイラブ桐生・第三部 30~31 作家名:落合順平