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アイラブ桐生・第三部 30~31

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 つぎつぎと集まってくる野次馬たちで赤い車の周辺には、
大きな人の輪が出来始めました。
米軍たちの動きも早く、自動小銃を小脇に抱えたMPたちを
たくさん乗せたジープが、
つぎつぎと交差点へ殺到をしてきました。


 「車を渡すな!」

 赤いスポーツカーを取り巻いた人たちから、一斉に声があがります。
一重からさらに二重へと、みている間に人垣が膨れ上がります。
厚みを増した人垣が、赤い車体へ近寄ろうとする
MPたちの進路を塞ぎました。

 事故が発生をした交差点を挟んで、
ついに怒りに燃えた野次馬たちと、
銃を構えたMPたちとの対峙が始まりました。

事故車を移動するために呼ばれたMPのレッカー車は、信号の向こう側で
別の野次馬たちに取り囲まれて、立ち往生をしてしまいました。
交差点の中央からは、装甲車のうえで銃を水平にかまえて威嚇をする
MPの声が響いてきました。



 「車は、絶対に渡すな。
 証拠を持ち去られたら、また、あいつらはうやむやにする。
 車だけは絶対にわたすな、これは大事な証拠の品だ!」



 車を囲む人垣は、時間とともにさらに増え続けます。
やがてお互いに腕を組み、強固なスクラムへ代わりはじめました。
琉球警察の警官も駆けつけてきました。
しかしMPへの手出しは、警官と言えども一切できません。
軍人や軍属が関わった事件が発生した場合には、
MPのもつ権限が最優先をされました。
ここでの警察は、まったく無力です。
MPと、野次馬の人垣の間に割って入ったまま、身動きが取れず
こちらも手出しが出来ずに、立ち往生をしたままです。



 「どういうことだい?・・」

 私の背後に隠れている優花に訊ねます。


 「米軍による証拠隠滅さ。
 ああしてMPたちは、いち早く
 基地内に当事者と車を運び込んでしまうのさ。
 基地内は絶対の治外法権だもの、安全地帯だ。
 (琉球)警察も、琉球政府も、米軍にはまったく手をだせないの。
 MPたちは事故のたびに、ああして隠滅の処理にくる。
 いつもああして、もみ消してしまう」


 蹴れずに手元に残っていたサッカーボールを
抱きしめた優花が、私の前に出ました。
そのボールを、さらに力をこめて
胸にしかっりと抱きしめました。


 「私が躊躇っていなければ、
 もうすこし早く、あの子たちに蹴ってあげていれば・・・・
 あの子たちは、怪我なんかしなかったのに。
 こんなことにはならなかったのに 」


 行こう、と強く優花に腕を掴まれました。
進む先は、赤いスポーツカーを取り囲んでいる野次馬たちのスクラムです。
振り返った優花の目は、涙で濡れていました。


 「群馬も来て。
 沖縄人の、無言の抵抗だ。
 暴力や鉄砲なんかに負けてたまるか、
 理不尽な暴挙に、踏みにじられたままになんかするもんか。
 いつだって沖縄人は、素手で、大きな敵に立ちむかうんだ。
 励まし合って腕を組んで、人間の鎖をつくるんだ。
 行こう、群馬」


 人間の鎖?
それもまた沖縄で聞く、生まれて初めての言葉です。