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アイラブ桐生・第三部 30~31

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 真っ青な青空へ、急上昇しながら米粒のように消えてゆく機影を、
私は、優花に背中へ張りつかれたままで見送りました
二人とロビーで別れた後も、いつまでたっても
優花は私の背中からは離れません。
見送りデッキを出てからも、離れることなくまだ背中合わせに
まとわりついたままでした。


 「いいお天気だね・・・・青空に吸い込まれそうだ」

 機影の消えた北の方角を、ぼんやりと見つめながらつぶやいた時です。
はじかれたように、優花が私の前に回り込んできました。
ねぇ、実はお願いがあるんだけどと、鼻を鳴らしはじめます。



 「そうよねえ、本当にいいお天気よね。
 こんな日は思いっきり、表で遊びたいわよね~
 私も那覇の市内は、久し振りなの。
 今日は私も、お仕事をさぼって遊びにいきたいな」

 たしかに穏やかで、雲ひとつない抜けるような
青空が頭上にはひろがっています。
背伸びをしたくなるほど、気持ちの良い陽の光があふれています。
しかしこの15歳は、見た目以上に実にしたたです。
働くことも知っていますが、上手に
サボることもまたうまく心得ています。
悪戯っぽい目をして、いつも絶妙のタイミングで人を遊びに誘います。


 「いいさ。
 ママには電話をするから。どこへ行きたい?」




 あてはないけど、アーケード街を
腕を組んで歩きたいと言いだしました。
そのくらいのことなら、お安いご用ですと答えたら、
恋人同士のように、しっかりと密着をして歩きたいと迫ってきました。
そんな風に好きな人と歩くのが、
小さいころからの夢だったと照れています。


 すこし意外な気もしました。
いつも派手な仕草と大人っぽい雰囲気で、
全身をくねらせながら踊る優花からは
とても想像もつかなかったほどの、他愛もないお願いごとです。


 「ボーイフレンドは、いないの?」

 「そんな暇などは、ありません!」


 ぶらさがるようにして、腕をつかまれてしまいました。
さらに本人が言うように。本当に歩きにくいほど
しっかりと密着されてしまいます。


 「映画もみたいしさ、お茶も飲みたいし・・
 やりたかったことは、実は前々から山ほどもあるんだよ。
 どうしょうかな、
 嬉しすぎて、困っちゃう」


 そのまま歩いて、空港から一番近い
アーケード街へと向かうことになりました。
いくつかの通りを横切って、アーケードの通りを目の前にした
交差点で、信号待ちで立ち止まりました。
私たちの足元へサッカーボールが転がってきました。
そのボールが、優花の足のところで止まりました。
少し離れた処で、小学生たちが手を振っています。




 「ぼうやたちのボール?」

 小学生たちの真ん中にいる、一番背の高い子が優花に向かって
蹴ってくれというように、足で催促をしています。
「行くわよ、」優花がボールを蹴るために、
身構えた瞬間でした。



 急ブレーキの悲鳴のような金属音と、
タイヤの激しくきしむ音が、ほとんど同時に響いてきました。
驚いて目を上げると、赤いオープンカーが信号を無視したまま、
凄い勢いで私たちの目を走りぬけていきました。


 後輪を滑らせながら、
やっとのことで急停止をした赤いスポーツカーが、
車体の揺れが収まいうちにに、ふたたびタイヤをきしませます。
また急激な発進を見せました。
あっというまに道の真ん中で急旋回をすると、
対向車線をジグザグにすり抜けながら今度は私たちの居る
こちらに向かって、速度も落とさずに突進をしてきました。