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アイラブ桐生・第三部 30~31

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 「おバァのはなしは、長い」

 優花がそう笑いながら、立ち上がります。


 「生きていくためだもの
 手段なんかを、えらんでいる場合じゃないよ。
 お母さんは、アメリカ本国に行ってしまったままだ・・・
 もう、沖縄何かに戻ってくるもんか」


 そう言うと、すこし遊びに行こうと駄々をこねはじめます。

 「迷惑をかけるね~
 優花も、あんたがついていてくれれば大丈夫さ。
 悪いが、孫の面倒をみておくれ。
 なにか、美味しいものでも作っておくさぁ」



 おバァは、笑いながら出掛ける二人を見送ってくれました。
坂道を下って、優花と二人で夕焼けの海岸をめざします。
もしかして君は混血かいと聞くと、
優花はくりくりした目を近づけてきます。



 「そうだよ、おとうは黒人さ。
 黒人専用のAサインバーで二人は出会ったんだって。
 私を産むとすぐ、おかぁは
 追いかけるようにアメリカ本国へ行っちゃった。
 おばぁが、そう私に話してくれたさ。
 居るんだよ、この島には
 あたいみたいにして生まれてきた子供が、たくさんいるさ。
 ちっとも、珍しくなんかあるものか、
 そういう町さ、沖縄は」


 本土とはまったく隔絶された、
想像を越える占領地・沖縄の現実です。
終戦からすでに20年余沖縄は、本土とはまったく異なる
戦後の道を歩いてきました。
いま目の前にいる優花は、占領支配にあえぐ
沖縄の歴史の生き証人のひとりです。


 「そんな、特別な目でみないでさ。
 あたしにだって、日本人としての誇りはあるよ。
 すこしだけ、黒い血がまじっているというだけで
 差別はされているけれど・・・・
 私のかあさんだって、望んだ道じゃ無いと思うけど、
 ほかに生きる道がなければ、それも仕方のないことさ。
 いまごろは、どこにいるんだろう。
 生きているのか、死んだのか
 それすら私には、分からない。
 どうすれば、いいと思う、
 ねぇ、群馬。」



 目の前にはすでに陽が落ちて、
暗くなった東シナ海が広がっています。
これでもこの子は、まだ、たった15歳になったばかりです。
15歳の春を迎えたばかりのこの幼い少女は、おばぁには内緒で、
Aサインバーを渡り歩きながらストリップで、小銭を稼いでいます。

 「働かなければ、食えないさ」


 そう言いながら、実ははにかんでいます。
内地に暮らしている、恵まれた15歳たちとは大違いです。
日本からもアメリカからも見放されて、
軍事政権下で無権利状態で支配されている
沖縄では、15歳にしてこんな少女も育っています。
伸びやかでしなやかな手足を広げて、無邪気に水遊びをしている
15歳を見つめているうちになぜか涙がこぼれてきました。
思わず、熱いものがこみあげてきました。


 人が生きるということの意味は、一体なんだろう・・
自由どころか、最初から過酷な運命を背負って生き続けている人たちが、
ここには、この占領支配下の沖縄には、限りなく存在をしているのです・・・・
それは初めて、異国で流したくやし涙でした。