あみのドミノ
私は樹々の緑が滲んで花火のように見えた。亜美乃は両腕を私の胸に置き、やがてどこかで折り合いをつけたと言うように、ゆっくりとその両手を軽く押し出すようにした。
「私の姿が見えなくなるまで、ここにいてね」
亜美乃はそう言って、駅への道を歩き出した。街路灯がその姿を横から照らしている。
やがて亜美乃の無理に背筋を伸ばしているかのような後ろ姿を照らし出した。私はその背中を抱きしめてやりたくなった。
「亜美乃!」
私が呼ぶと、亜美乃が一瞬立ち止まった。しかし、亜美乃は振り返らずにまた歩き出した。私は掛け出した。公園を出て辺りを見渡したがどこにも見当たらない。私は胸の奥の方から溢れてくる感情を、それでもどこか覚めながら懐かしく思い出していた。二十歳の頃、ちょっとだけ付き合った年上の女性が悲しそうな顔をして「さようなら」を言ったとき、すぐにはピンとこなくて、数分たってから悲しくなって、もう姿も見えなくなったその女性が去った方へ涙を流しながら、街を探し回ったことを。
私は歩いた。亜美乃の姿を求めて。涙で風景が滲んで人の顔も判別できないのに。
それでも、二十歳の頃と違っているのは、この涙も単に自分に酔っているのだと、どこかに醒めた自分もいて、それもまた違う哀しみを感じて歩き続けた。もう行くあても、目的もないのに。
(終わり)