あみのドミノ
もう、少女漫画の世界では無い。私は女に飢えたいやらしい中年というイメージになってしまったのかと情けなくなった。
「若い女性の美しさがわかる歳になったんだよ。若い時は当たり前にしか見えなかったのが、解るようになったんだよ」と私は弁明する。
「でも、いやらしい目つきに見えたよ」
亜美乃はからかうように言って、私の腕をとる。
「別に裸にして触りたいとか思っているわけじゃないんだ」
私はまだいやらしいイメージの払拭にやっきとなっている。
「お腹空いたなあ」
亜美乃はもうそんなことはどうでもいいというように言った。私も何もむきになる話題でもないことに気づいた。「何を食べようか」と亜美乃を見る。
「そうだな、二人で分け合えるのがいいなあ」
亜美乃は、そう言ってからはっとしたように私の顔を見た。
「奥様には電話してあるの」
屈託のない笑顔から、真面目な顔になる。明から暗にはっきりわかるように変わった。
「ああ、遅くなるって言ってあるよ」
私は、亜美乃の暗い顔を見たくなかった。
「食事は」
亜美乃はまだこだわっている。
「食べるとも食べないとも言ってないけど」
私はこの話題を早く終わらせたかった。
「そう、私だったらいやだな。一人で食事なんて」
亜美乃がちょっと下を向いて小さな声で言った。私は盛り上がった気持ちが急にしぼむのを感じた。
「心配ないよ。女房のことは」
私は歩みを止めている亜美乃を引っぱるように歩いた。亜美乃は引きずられるように歩きながら、何かを考えている。
「ね、奥様に電話して」
亜美乃が立ち止まり、私を見上げて言った。暗い顔は晴れ、目は輝いていた。
「これから、肉を買って帰ってスキヤキでもしよう。野菜は奥様に用意して貰って。私は妹の麻美だということにして。どっちみち佐藤さんて紹介してくれればいいのだし」