修学旅行
はじめての竹下通り
ロリータとクレープの街。
『番号でお願いします』
高校二年生、晩夏。山に囲まれた田舎の学校。修学旅行先はあこがれの大都会、東京だった。
かの有名なその通りに着いたのはちょうどおやつの時間。小腹のすいた午後三時。計画通りだった。
「クレープ食べたことある?」
東京に行くと言ったら、妹が身を乗り出し聞いてきた。
「昔、家庭科で作ったよ」「違う違う、ちゃんとお店で売ってるやつ」
妹は言った。有名な店がここにあるんだ、と妹は言った。
チョコ生クリーム、
チョコ生クリーム、
チョコ生クリーム。
間違えたら恥ずかしい。田舎者だと思われたくない。大丈夫、三回も口の中で唱えたんだから。
「あの、チョコ生ク……」
「番号でお願いします」
あれから時は過ぎ、私は今東京の大学に通っている。この間、ずっと気になっていた男性と週末に会う約束をした。
「行きたいところがあるんだ」
「どこですか」
「恥ずかしいんだけどね」
横にそれる目線。
「僕、甘いものが結構好きで」
下がる眉尻。
「特にクレープとか…すごく」
はにかむ口元。えくぼが浮かぶ。
「で、クレープといえばやっぱり竹下かなって」
「何味がお好きなんですか」
「え?あ、えっと、僕は」
口内に広がる甘酸っぱくてほろ苦い何か。
「僕はチョコ生ク……」
「バンゴウデオネガイシマス」
そのとき思ったんだ。
まだ続いているのかもしれない。
その日の夕方、実家から制服が送られてきたものだから。