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修学旅行

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はじめての東京都庁



 石原さんには、会えなかった。

   『びんでぃ』

 中学二年生、夏。ニキビとの戦いは最大の山場を迎えていた。そんな時に修学旅行なんて肌に強烈なダメージを与える行事をぶち込んでくる教師たちは皆、ニキビの手下なのではないかと本気で思った。
 都庁についたのは正午近く。庁内は結構賑わっていて、その大半が海外からの観光客だった。私は少しでも肌にダメージを与えない様にと、前髪をあげ、広い額を全開にしていた。風通しが良いに越したことはない。
 庁内を散策していると、突然目の前にインスタントカメラを持ったインド人が現れた。浅黒の肌に鮮やかな桃色の布。どうやら一緒に写真に写ってほしいようだった。
 別れ際、彼女はカタコトの日本語でお礼を言った。そして私の額の真ん中にある、一際大きなニキビをつんとつつくと、
 「ビンディ」
 と、一言つぶやいた。


 あれから時は過ぎ、私は今東京の大学に通っている。ニキビはもうすっかり良くなって、化粧のりもすごくいい毎日。めでたしめでたし。
 新しい友達もでき、東京の暮らしにもやっと慣れてきた。
 「私ね、実は双子なんだ」
 ある日大学で知り合った友達が私に言った。「そっくりなの」と。
 「じゃあ見分けがつかないね」
 私がそう答えると、彼女はそっと前髪をあげて綺麗な額を私に向けてきた。彼女はその中心を指差して、
 「ここに黒子がある方が、私」
 なるほど。彼女の指の先、ぽつんと遠慮がちにある黒い点。
 私は一人、あの時の鮮やかな桃色を思い出していた。当時は理解できなかったけど。
 「bindu」
 私は彼女の黒子を指でつんとつついて、小さくつぶやいた。
 そのとき思ったんだ。
 私の修学旅行は、私の旅はまだ。
 まだ続いているのかもしれない。

 その日の夕方、実家から制服が送られてきたものだから。

作品名:修学旅行 作家名:o.chi