修学旅行
はじめての東京駅
その駅には電車も人も、数えきれないほど集まって来ていて。
『緑の電車』
中学二年生、秋。私は初めてその駅に降り立った。顔の丸い新幹線から硬いコンクリートのホームに足をつけたとき、足の裏側がびくっとしたのを覚えている。向かいのホームに滑り着いた銀色の電車に、紺色のスカートがふわりと浮いた。
私は当時田舎の女子校に通っていた。
修学旅行。
今口に出して言えば、若干の卑猥さも漂うくらいの懐かしい響き。
この駅からは自由行動。緑の電車に乗らなくてはいけないのだが、一体どこに行けばいいのか。しょうがないからあの娘についていこう。
それから小一時間。私は孤独と不安の渦に包まれながら、ひとりでその駅を彷徨った。
田んぼと、自転車と川。
それが世界の全てだった田舎娘にとっては、過酷すぎる都会の洗礼。
今でも私はそう思うのだ。
あれから時は過ぎ、私は今東京の大学に通っている。東京駅は今日も人で溢れかえっている。人、ひと、ヒト、他人。
緑色の電車は今日も走る。
ぐるぐる。
ぐるぐる。
同じところを回りっぱなしで。
私も後を追いかけるように。
ぐるぐる。
ぐるぐる。
おかしい。
何でだろう。
「緑の電車」は今日も私を乗せてはくれない。私はぐるぐるぐるぐる、今もこの大都会を彷徨っている。黒いヒールに絡み付く電車の吐息。見つけて、見つけて、私を見つけて。
まだ、続いているのかもしれない。
誰かに、自分に、見つけられるまで。私の修学旅行はまだ。
その日の夕方、実家から制服が送られてきたものだから。