修学旅行
はじめての東京タワー
似た者どうし。
『のっぽさん』
中学二年生、初秋。思ったよりも小さい、それが率直な感想だった。
何というか、オレンジがかった赤と白という組み合わせもめでたい。というより、ちょっとノスタルジックだ。
修学旅行先が東京ならば、ここは外せないし、むしろ学校側が強制的にスケジュールに組み込んでくる。写真やテレビの影響で、空を突き抜ける様にただまっすぐに、力強く仁王立ちをし、計り知れない存在感を放っているというイメージが頭にこびりついてしまっていた。
ただ実際は、
なんだこんなものかとクラスの
半分以上が思うほどの
親近感、安心感。
つまり、
ただののっぽさんだった。
そんな姿が私に似ているかもと、そっとその足に触れる。ひんやりと冷たい感触が手に染み渡った。
あれから時は過ぎ、私は今東京の大学に通っている。保育士を目指し日々奮闘中だ。
「せんせいはしんちょういくつ」
バイト先の保育園で、年長組みの男の子が私に尋ねてきた。私はよく聞かれるその質問にいつもの様に答えた。
「三三○メートル」
「なにそれー」「うそつきー」
何度も見てきた子供たちの反応に私はにっこりと笑う。
私は身長が高い。小さい頃から周りより頭一つ飛び出して生活してきた。先生や友達はただ大きく、頼りがいがありそうだという理由から私を責任ある重要な位置によくおきたがった。ただ大きいというだけで誤解されてしまう。大都会の真ん中に立つあの鉄塔の様に。
「せんせいのてはつめたいね」
気がつくと小さな手が私のそれを包んでいた。声のするほうを優しく見下ろすと、丸い二つの視線とかち合う。それらは夕日に照らされきらきらと瞬いていた。
「わたししってるよ。せんせいとうきょうタワーとおなじだね、おおきいね」
今まで気付いた子はいなかった。
初めてのその反応に思わず言葉が詰まる。ふいに離れる幼子のささやかな手の温もり。同時に浮かぶ懐かしいひんやりとした感触。遠ざかる小さな背中は周りに溶け込み夕空の下、楽しげに遊び始めた。
私は自分の手をそっとエプロンのポケットにしまった。
ぎゅうっと握る。
掌が火照っている。
あの日、あのとき、私の修学旅行。
まだ続いているのかもしれない。
その日の夕方、実家から制服が送られてきたものだから。